6月17日に参議院で開催された、沖縄及び北方問題に関する特別委員会(沖縄北方委員会)において、沖縄振興に関する参考人として意見陳述を行ってきました。映像はこちらからご覧いただけます。以下は、私の発言に関連する議事録です。口語的に意味が通じにくい箇所、小さな言い間違い、意味がわかりにくいところなどを微修正していますので、公的な議事録の内容とは一部異なるところがあります。

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第189回国会 参議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会会議録第7号
平成27年6月17日(水曜日)午後1時開会。出席者は下のとおり。

委員長 風間直樹君

理事 石田昌宏君
、末松信介君
、藤田幸久君
、河野義博君

委員 江島潔君、鴻池祥肇君、島尻安伊子君、野村哲郎君、長谷川岳君、橋本聖子君、三宅伸吾君、山本一太君、石上俊雄君、藤本祐司君
、牧山ひろみ君
、竹谷とし子君
、儀間光男君
、大門実紀史君
、吉田忠智君

事務局側 第一特別調査室長    松井一彦君

参考人 宜野湾市長 佐喜眞淳君、静岡県立大学グローバル地域センター特任教授 小川和久君、沖縄大学人文学部准教授・トリニティ株式会社代表取締役社長 樋口耕太郎君、沖縄国際大学経済学部教授 前泊博盛君

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委員長(風間直樹君) 沖縄及び北方問題に関しての対策樹立に関する調査のうち、沖縄振興及び在沖縄米軍基地問題に関する件を議題といたします。

(中略)

○参考人(樋口耕太郎君) 沖縄から参りました樋口耕太郎です。経済と振興の話をさせていただきたいと思います。

沖縄復帰以来43年、沖縄振興開発計画等々、非常に目覚ましい成果が上げられたと思います。本当に多くの方が尽力されています。振興予算だけでも15兆円近くの累積額が投下されていて、件経済の規模は復帰から約8倍。観光産業も振興が目覚ましく、振興計画のみならず、例えば1997年に那覇空港を発着する空港の着陸料、施設料、燃料税、大幅に減免され、あるいは、美ら海水族館の新館、首里城公園世界遺産登録、あるいは二千円札の裏に守礼の門、沖縄を支えてくれる日本国のサポートが本当に感じられるようで、1997年から15年間で観光客は倍増しております。

また、2000年に九州・沖縄サミット、あるいは2010年から中国人の副次ビザ、沖縄で一泊する中国人に関しては、複数回のビザが発行されるという特典。そして、現在は那覇空港の第二滑走路が進行中です。結果、沖縄を訪れる観光客は毎年700万人の声を聞く来訪者数になり、観光収入は4000億円。

観光だけではありません。情報産業、通信産業も目覚ましく、過去10年で、これは2002年から2012年のデータですけど、情報通信関連企業数は5倍以上、コールセンターなどを中心に大量の雇用が生まれ、過去10年間で雇用も5倍弱になっています。

おかげでというべきなのか分かりませんけれども、人口増加も、流入と相まって少なくとも現時点において人口が増えている数少ない地方都市であり、経済成長だけではなく、それに規模の深みが加わって、日本で最も景気の良い地方都市の一つになっています。これは皆さんご案内の通りだと思います。

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ところが、観光の質、労働の質、社会の質。これについては非常に問題が山積どころか悪化しているんじゃないだろうか。観光の質も、一人当たりの観光収入の低下が止まらない。観光客一人当たりの滞在日数も低下傾向。観光客はどんどん沖縄本島を離れて離党にばかり行っているように見える。あるいは、観光立県と言われながら、ホテルで働く従業員の給料は全く上がらず、若者の給料は200万円いけばいい方だ。長年勤めても給料は上がらない。子供を作ることも難しい。日本最低の収入であることも依然として変わらず、情報通信産業がこれほどまで増えているのに、なぜ沖縄はまだ最下位の所得のままなんだろう。

あるいは、経済的なものだけではありません。教育問題、大学、高校とも進学率はいまだに最低水準。大学卒業後の無業者は全国一位、就職率全国最低、就職後の離職率も残念ながら全国一位。

あるいは、社会的な問題としては、いわゆるでき婚率、全国一位であり、若い結婚は生涯年収が低くなる傾向があって離婚率が高く、シングルマザーを大量に生み出す可能性があり、例えば花街で働く女性、ホステスの大多数はシングルマザーです。そうなると家庭の問題が生じる。子供の深夜徘徊、不眠、睡眠不足。早稲田大学のレポートによりますと、1歳から6歳まで、年端もいかない幼児の7割強が睡眠不足という調査があります。

あるいは、死亡率、死亡者数当たりの自殺、これも全国トップ。長寿県から転落し、65歳以上の死亡率は全国の高水準レベルを推移している。メタボ率もトップ。あるいは糖尿病、高血圧、生活習慣病が広がっている。幼児虐待、DV、性的虐待、これも高水準だというふうに報告されています。

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数量的な成果を実現する陰で、産業、労働、生活の質が著しく低下し続けている。これは非常に問題というか、とっても痛ましいことであって、我々の振興計画に何か足りないものがあったに違いない。この点に関して我々は深く向き合って考える時期に来ているんじゃないだろうか。多大な方々の今までの努力を無駄にしないためにも、今ここで発想を変えて、全然違ったアプローチでこの生活と社会の質を上げるような方法はないんだろうかというようなことを考えて、随分長い間たちます。

沖縄は低所得県と言われますが、それ以上に日本最大の格差社会だというエビデンスもあります。振興計画が本土との格差を縮めることを目的として長年実行されてきましたが、それゆえに県内に格差を生み、多くの社会問題の原因となっているのではないだろうか。我々が沖縄にとって良かれと思った補助金が傾斜的に配分され、社会の格差を生み、生活の質を痛めているとするならば、アプローチを変えるべきではないだろうか。

私は沖縄に来て10年、岩手県盛岡市の出身なので、沖縄にとってはよそ者。この地域の社会、文化を知るために、毎晩、松山という那覇の町で、1日5時間、夜の9時半から朝の3時まで、女の子もいない、カラオケもないところで、人の話を聞くために、内外の知識人が集まると言われている店に過去10年通っています。毎日7人のお客さんがいらっしゃって、年間僕300日その店にいますので、年間延べ2100名、10年間やっていますので2万1000人の話を聞き続けて、何かそこから沖縄の社会のような、文化のような、構造のような、問題を解く道筋がないかということをずっと自分なりに考えてきました

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この振興計画は、文化に対する深い理解なしでは無理だというのが私の今の結論でございます。沖縄は本土とは全くと言っていいくらい異なる文化を持つ社会で、よそ者の私だから逆に言えるのかも分かりません。あるテレビ番組でこういうことを申し上げました。沖縄はクラクションを鳴らさないんだと。本土だったら、違法運転とか不届きな運転をしている人間に対してクラクションを鳴らすと、いいぞ樋口、もっと鳴らせというかも知れないけれど、沖縄は、鳴らした樋口の方をさっと見て、なんで鳴らすのかなと僕の方が責められるんです。声を上げた人間の方が問題視される、あるいは加害者だというふうな扱いを受けて、結局のところ、声を上げる人間がなかなか存在しない。

これは言葉で言うだけでは難しいですが、本土の感覚とは随分違うので、なかなか理解することは難しいと思います。声を上げられない社会、ちょっとでも他人と違うことをすると物すごく目立ってしまう。ミダサー、これは物を乱すという意味ですけど、と非難される。

ある有名なミュージシャンが、私はとってもワインが好きなんだ、ウチナーンチュです。でも、これはひた隠しに隠している。自分がワインが好きだということが暴露というか知られると、ウチナーンチュどうしの人間関係がこじれる。

私は大学で教えていますけど、教育の現場でも、文章はしっかり書ける学生でも質問を全然してくれない。声を上げて質問するという行為が、やっぱり周囲の目を気にするということが非常に多いんだと思います。頭のいい子でも、賢い子でも、思考をしている子でも、やっぱり声を上げることが非常に難しい。

人材でも、会社の現場では部下を注意できない。注意をすると、逆にミダサーと言われて、何で、あの先輩怖いよねと、むしろ何か先輩の方が非難されるような雰囲気になる。

雇用でもそうです。例えば経営者が、従業員の給料を上げよう、業界水準以上に上げようと思って努力すると、周りの業界の人たちから、そんなに頑張らないでもねと無言の圧力がかかる。

この手の微妙な感情な動きを物すごい鋭い感覚で感じるセンサーをウチナーンチュは持っているわけです。自分の居場所を確保するための死活問題といってもいいと思います。

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補助金を管理する人間が社会全体に公平に分配しようと思っても、やっぱり親類縁者あるいは自分の側近たちが、そんなことをなぜするんですかと。自分の血縁、あるいは自分の身近なグループを優先して配分しなければ、その人自身が居場所を失うという現象があるかもしれない。補助金が不均等に分配されるのを知っていても、社会全体に対してフェアに振る舞おうとしても、身内が反対することには非常に困難で、ある意味の同調圧力にあらがうことは難しい。

あるいは、既得権益の企業の多くは、複雑な株式の持ち合いなどを通じてお互いを縛りあっているという、こういう環境にあります。

ですから、このような方々に、別に彼らを悪者にしようと言っている意味はないんですが、補助金を投下しても、格差は拡大するばかりではないだろうか。

大原則と言っていいと思いますけれど、沖縄は物を変えてはいけない、声を上げてはいけない、こういった無言のルールがあるように感じています。

結果として、人材が育たない、新しいことをやろうとしている人間、イノベーションを起こそうという人間に対して無言の圧力が掛かって頭抜けることができない。沖縄出身者というのは非常に才能があるんだけれども、結局、活躍している人はほとんど県外あるいは国外です。成功した人間も沖縄に戻ってくるとまた潰される。したがって、社会の中からイノベーションが起こらない、創業者が生まれない、オンリーワン企業がほとんど生じない。結果として、産業の質が低下し、雇用の質が低下し、生活の質が低下し、数々の社会問題が生じているんではないだろうか。

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この分析が仮に正しいとして、さあ、なにをするべきか。社会的、文化的な制約を受けずに実業として成り立つ選択肢、とっぴに思われるかもしれないですけれども、私は、JALの子会社、日本トランスオーシャン航空、かつて南西航空という飛行機会社を沖縄に買い戻して、社会的、文化的圧力から抜けるような独自の経営をして沖縄の人材を育成する、活性化する、そういったドラスチックな方法がこれからの振興に必要なんではないかと思います。

地方創生は、人の創生であり、人が生きないと社会は生きない。人を殺さない事業体が必ず必要で、人を殺さない事業体というのはそれなりの条件が必要だ。それは文化的なものであり、社会的なものと深く関連している、と。

失礼しました。時間が長くなりました。

(中略)

◯参考人(樋口耕太郎君) 格差の解消についてですが、沖縄の一つの難しさは、格差を解消しようとして給料を上げると社会的な圧力がかかるという見えない力があると思います。その力にかかわらずに、実際にどんどん給料を上げていく、従業員たちにどんどんイノベーティブなことをやってもらうためには、外需型の産業じゃないと成り立たないと私は思っています。内需型では、お互い人間関係があり、縁故があり、取引業者があり、その中で株の持ち合いがあった場合、自分は独立して歩むんだということは非常にいいにくい。ところが、東アジアあるいは県外から外資を稼げる事業体であれば独自の経営ができるんじゃないかなと思っています。

また、南西航空というふうに私は呼んでいますが、この会社を沖縄に買い戻して、沖縄は今まで、那覇空港、石垣空港のような「点」ではなくて、離島便をたくさん飛ばすことによって「面」で売る。そうすれば、観光客は滞在日数が当然延びる。那覇に来たらあと与那国に行ってみようかなと。3日、4日延びる。今平均で2泊しかしないお客さんが仮に平均で4泊するみたいなことになれば、すごく単純な算出ですけど、観光収入は4000億円から8000億円になるイメージができる可能性があるというぐらい、一社で物すごく経済的なインパクトをもたらす可能性があるわけです。

伸びるビジネスには人が付きます。人を育てるためにはビジネスが伸びなきゃいけない、新しいことをしなきゃいけない、イノベーションを起こして初めて人が強くなるんだと。イノベーションが起こらない産業からは人が育たないので、会社自体を伸ばすために、内需型、内側に向かうのではなくて、外側に伸びる可能性を探すとなると、消去法でこの会社しか残らないじゃないか。

あるいは、人の心に火がともるというんですかね、俺たちもできるんじゃかないかというふうにインスピレーションを受けることが非常に重要で、変な話ですけど、野茂英雄が近鉄を首になってロサンゼルスで新人王を取った。あのときまで日本人で大リーグで野球できるなんて誰も思わなかったんだけど、あれからあれよあれよと言う間に日本人大リーガーが続出して、あっという間に日本人なしでは大リーグが成り立たないぐらいになっていると。これがインスピレーションの強さであり、このメッセージ性の強さというのがウチナーンチュに向けられて発せられたときに、もうどれだけのパワーが出るかということを非常に楽しみにしたいな、そういう社会性のある沖縄県民だと私は思っています。

南西航空は一民間企業ですが、2010年1月27日、琉球新報の報道によりますと、JTAが合弁会社の南西航空としてスタートした1967年5月、JALと沖縄側の提携先企業が交わした合弁会社契約第7条において、日航は将来適当な時期に新会社の実質的経営権の主体を沖縄企業に移管すると明記されているというふうに報道されています。つまり、創業以来、いずれ沖縄に経営権を渡すということが前提としてスタートした会社であり、現在、JALの子会社として経営されていますが、大量の公的資金が投入され、一民間企業の利益ではなくて、社会全体に寄与するかどうかという非常に公的な視点から今この会社の将来を決めるべきじゃないかなと私は思っています。

ありがとうございます。

(中略)

◯参考人(樋口耕太郎君) 文化的、社会的な制約を受けない外需型のイスピレーショナルな企業というふうに申し上げましたが、だからといって沖縄に全く異物を持ち込んでも成り立たないと思います。ウチナーンチュの心に響くものでなきゃいけない。だから、単に本土企業の子会社という意味では全く成り立たないと思っている。これは、あくまで、とことん、究極的に、沖縄のためでなきゃいけない。

ただ、私は本土の人間として沖縄に10年住んでいて、これよく言われるんです。樋口さん、沖縄のために頑張ってくださいって。正直言って、私、この言葉に多少違和感を覚えるんですね。私、岩手県の出身ですが、岩手にお客さんが来たら、岩手県が何かできますかと、多分そういうふうに申し上げると思うんです。

ですから、沖縄が本当に栄えるためには、沖縄のため何かをするんではなくて、日本の地方、東アジアのために沖縄がお役に立てる方法を模索するべきであって、今、地方経済で衰退をしている各地、沖縄だけじゃない、本当にいろんなところに問題があります。そこに飛行機を飛ばして東アジアにつなぐ、この成長著しい経済を日本に持ち込む、沖縄があるからこそ経済がやってきたというふうに感謝されて初めて沖縄と本土の関係が本当の意味で良くなるんじゃないのかなと。沖縄以外のために沖縄が尽くして、結果として沖縄のためになる、そのためには沖縄内部の制約から解き放たれなければならないと、こういう図式になっていると私は理解しています。

(中略)

沖縄でのカジノ事業についての質問を受けて

◯参考人(樋口耕太郎君) 個人的な感覚的な話になると思うんですが、私、アメリカに暮らしていたことがありまして、カジノをいろいろ見て回ったことがあります。不動産金融をやっていましたので。まず思ったのは、数量的な経済の規模に比べて視覚的な経済の範囲が非常に狭いということですね。ラスベガスも本当に大きな経済規模を持っていますけど、上から見たら、このストリップだけでこれだけ稼いでいるのかと。一歩外れたら、社会的な乱れというのかな、非常に印象が悪くて、僕は個人的には非常に納得感がない。

カジノがどうこうという議論もあるんですけれども、そもそも我々、少子高齢化社会に突入して人口動態が大きく傾斜する中で、70歳、75歳まで小遣い稼ぎじゃなくて普通に働かなきゃいけない。そういうふうな職場としてふさわしいかという観点がとっても必要だと思うんですね。

その意味では、何をつくるかというよりも、どのように経営するのか、どのように運営するのかというふうな観点がとっても重要で、特に地方の議論からすれば、増田寛也さんのレポートじゃないですけれども、これから25年間で出産可能な女性人口が半分以下になる地方自治体が日本で800以上と。それは、どれだけ給料を上げても、どれだけ福利厚生しても、それだけでは人が来ない時代が来るかもしれない。人が働くということの良さを真に追求した企業でなければ、どれだけ給料を渡しても、売り上げがあっても、利幅があっても、黒字で倒産するということが起こるんじゃないだろうかと。労働の概念そのものを変えるような議論につなげればいいんじゃないかなと私は思っています。