トリニティリゾート事業計画書

私が以前から計画しているリゾートホテル事業、「愛の経営と、自然農業を融合したハイエンドリゾート(仮に、「トリニティリゾート」と称しています。)」があります。今まではウェブサイト非公開でしたが、計画をよりオープンにするという趣旨で事業計画書をアップしました。左上をクリックしてpdfファイルをダウンロードの上ご覧下さい。分量が比較的大量(61ページ)ですのでご注意下さい。なお、7月7日にアップした「農業の未来」は、この案件の背景を説明する趣旨で、現代農業の問題の本質と解決方法をまとめたものです。合わせてご参照下さい。

社会の生態系
現代資本主義の金融は、長期的に維持不可能な高額の利子(金融業者に「支払われる」、税引後事業収益の40%を含む、10%の資本コストのことを示します。詳しくは「次世代金融論《その5》」参照下さい。)を事業に要求するため、この資本コストを大幅に減額しなければいかなる事業も持続性を持ちえず、従業員を中心としたステイクホルダーへの分配が過剰に削減され、ひいては彼らの生活を大きく脅かすことになります。中産階級は、企業の従業員であると同時に、GDPの6割(アメリカはGDPの7割が消費です)を担う、社会の重要な消費者ですが、彼らの生活・収入基盤が崩壊しつつ、結局社会全体の凋落を招いているという悪循環が生じているため、いくら金融政策で景気を刺激しても肝心の消費が回復しない、消費が回復しなければ企業の投資も回復しない、という状況に陥っているように見えます*(1)

この、中産階級が崩壊へと進む循環を断ち切るためには、「地獄と極楽のお話」のメカニズムによって競争を避け、人間関係を改善することで労働生産性を飛躍的に高め、「次世代金融」*(2) を通じて資本コストを大きく削減し、それを原資として労働分配率を高め(つまり労働者の報酬を増やすということです)、中産階級の生活基盤を復活させることが有効です。持続的にこれを達成するためには、特にこれまでの沖縄がそうであったように、政治や補助金や税の優遇措置などによるのではなく、「個人の生産性を高める」という、極めてまっとうな手法による必要があります。 ・・・そうでなければ持続性が生まれないためです。資本主義社会(私は、「第一の経済」と呼んでいます。)における労働生産性は、人を最小限まで減らした状態で手一杯の従業員に強烈なプレッシャーを与え、飴と鞭を与えながら短時間で大量の仕事をさせることで達成しようとするものですが、私が「第二の経済」と呼ぶ次世代社会においては、 ①自分自身に嘘をつくことをやめ、労働の質を著しく高めることで、商品とサービスの単価を高く維持し、②顧客と超・長期に亘る正直な人間関係を構築することで、営業を極小化しながら営業効率を飛躍的に高め、売上高と利益率を確保する、ことで達成するものです。

経営の未来
私は、沖縄での個人的な体験を通じて、「収益や事業の成果よりも人間関係を優先し、従業員をコントロールすることをやめて自由にし、恐怖で規律を保つのではなく恐れを取り除くことで、結果として、きわめて高い事業力を生み出すことができるのではないか」と考えるようになり、やがてそれが確信となるにつれて、この仮説を実証する誘惑に抗し難く、サンマリーナホテルの経営と、人事と、事業の全てをひっくり返してしまいました。ちょうど世の中の「常識」とことごとく反対の経営をすることになるのですが、少なくとも特定の条件の下で、私の仮説が現実に、それも破格に機能することが実証されたことになります。

サンマリーナにおける事業の基準は、「心からやりたいことか?」「人の役に立つか?」のみであり、仕事のルールは、「人間関係を何よりも優先する」ことであり、人事は事業的な成果に因らず、正直な順、志の高い順、人格の高い順、思いやりの順に登用するということです。これを一言で集約すると、事業の現場における全ての人間関係の接点において、「いま、愛なら何をするだろうか?」という問いが唯一のテーマとなるのです。そして興味深いことに、この原理は自然農の価値観と非常に似ているのです。自然農の考え方であり、自然農家の生き方は、「いかに自然をコントロールし効率的に生産するか」、という農業が有史以来試みてきた考え方とは対極の発想により、自然をコントロールすることを止め、自然の営みに寄り添い、害虫や雑草を敵とせず、自然がもともと有するありのままの力を肯定して生態系からの果実を収穫するものです。経営者が事業と従業員をコントロールすることを止め、収益目標と成果主義を手放し、自分のエゴを捨てて彼らの役に立つということに専心した瞬間に、事業の生態系が息を吹き返し、正直で思いやりに基づく人間関係の力強い営みが、想像を超える収益となって顕在化することと同じであり、リゾートホテルと農業という、社会的に分断された二つの産業を同一の経営的価値観で統合するというトリニティリゾートの重要なコンセプトとなっています。

案件の本質
「第一の経済」が構造的に疲弊する中、これから50年間の沖縄は、世界最大の「第二の経済圏」としての重要度を急速に増す可能性があります。このような役割を果たす沖縄には、単に一地域の発展という発想を超え、社会全体の多岐にわたる重大な問題に対して合理的な回答を自らの行動によって示す可能性と責務を有していると思います。本件はそのよう発想に立ち、

①現在の社会の問題の根源は何か?
②その具体的な解決方法は何か?
③その解決方法を、最も効率よく実現する事業プランは何か?

という、3つの大きな問いを突き詰め、私なりの「究極のリゾート事業」を約一年間かけて追求し、その青写真をまとめたものです。計画のたて付けは、「リゾート」ですが、本当に意味のあるポイントは、現在社会で生じている重大かつ多岐な問題・・・、農業、食品、労働、ホテル運営、金融、人を大事にするということの真の意味、資本と経営など・・・、に対して、収益力の裏付けを伴う現実的な回答を提供するという点です。そして、このようなプランが社会的に影響力を持つためには、十分な・・・ というより破格な収益力を(結果として)実現することが、最短距離であり唯一の解決策ではないかと、私は考えています。良い悪いは別にして、個人の所得水準は社会的にとても注目度が高いため、理想を広めようとすればこれに勝るものはありません。例えば、沖縄での本件事業における農業担当者の家計所得が、夫婦共働きで1,000 万円の声を聞くような水準が私の具体的なイメージですが、これが補助金なしで無理なく楽しく実現すれば、相当な驚きをもって迎えられる筈です。このようなインパクトを伴う事業が実現すれば、業界が変わることはむしろ容易ではないかと思います。同様に、このリゾートでは、一日6時間労働、週休二日制、給与は一般的なホテル業の2倍(といっても沖縄を基準にすると500万円程度です。)、を提供する労働環境を実現したいと考えていますが、このためには労働生産性を一般的なホテルの2倍+α にする必要があります。一見突飛なようですが、人間関係を改善し、組織のコントロールを手放し、高品質なサービスと商品を提供することなどで十分可能であり、本件事業計画の経営バランスの重要な要素になっています。

①価格を下げ、資本の力でシェアを拡大し、②人件費を削減し、③量的平準化、によって成長を続けてきた超・資本主義経済(「第一の経済」)社会を治癒する方法は、ちょうどこの反対のプロトタイプを(沖縄で)実現することであり、すなわち、①’資本を使わずに価格を維持し、②’労働分配率を高め、③’高品質による質的平準化、によって高収益を安定的に生みだす「第二の経済」をバランスすることであり、トリニティリゾートはこのコンセプトによって構想されています。このバランスにおいては、最高品質の食材、料理、顧客のリゾート体験が、最高の環境で、嘘のない、正直な人間関係で提供されることはもちろん、それに加えて、事業体としてのリゾートが、社会においてどのような役割を果たすのか、という「あり方」が重要な意味を持ちます。価値のある「あり方」とは、例えば、その事業活動の(可能であれば)全てが、社会の根源的な問題を直接治癒する活動であることでしょう。

社会と人(そして環境)を豊かにするために「お金を使う」ことは、容易であるかのように見えて、現実には大変困難です。人の依存心を増やすのではなく、個人の生産性を上げ、自立を後押しし、生活を真に豊かにするようなお金の使い方をすることは、成果によらず人格によって考課・登用した人財に対して、例えば市場水準の2倍の給与を提供すること、リゾートが自然な農業・酪農生産者の豊かな生活を支える購買力となることで、自然な農業生産を妨げる問題の本質(高品質の生産物を評価する仕組みと、これらを十分な価格で買い続ける購買力の欠如)を解消しながら、農業従事者の自立を進めること、これらの事業から生まれる税引き後余剰利益の100%を原資として、無担保・無利息貸付事業*(3) を立ち上げること、などで可能です。

このプロセスは、自然農・自然放牧に事業性をもたらし、自然で持続可能な農地を拡大し、食糧自給率を回復して域外からの輸入食糧を減らし、リゾートに従事する従業員(中産階級)の所得を増やすことで、地域の購買力を高め、新たな労働概念と安全で豊かな食生活によって、やがて従業員と家族の疾病率が下がり、健康で超・長期間無理なく働けるようになり、日常生活に時間的な余裕が生まれることで、職場や家庭や社会の人間関係が回復し、共同体が再生し、地域「一番館」リゾートの質を著しく高めることで、観光地全体の質を高め、沖縄に必ずしも関心がなかった超・ハイエンド層を新たに呼び込み、無利息貸付の浸透によって、社会のセーフティーネットを拡充し、真の自立のための事業資金を提供し、社会に存在する利子の悪影響を緩和させ、社会的にも高額所得者から中産階級への所得移転が進み、地域経済が活性化し、県財政を助け、外貨の獲得が進むなどの効果を生み出します。すなわち、顧客がお金を支払うたびに、その額の分だけ社会が確実に豊かになるような事業の「あり方」です。

顧客にとっては、嘘のない、人を変えない、自分に正直な「高品質」サービスを体験しながら、素晴らしい休暇を過ごすだけで、自分が支払ったお金の全額が(それを目的としなくても)確実に社会を良くする原資になるため、このリゾートで休暇を楽しむこと自体が、もっとも楽しく効果的な寄付行為としても機能します(一般的な援助や寄付金は、その大半が必要とする人に届かないという重大な欠陥があります*(4) )。もちろん顧客は、寄付としてお金を支払うわけではないため、押し付けがましさもなく、それが寄付だと意識する必要もありません。・・・自分のバケーション費用が結果として社会のためになるのと、社会を良くするために(チャリティのように)バケーションを取るのとでは、意味が大きく異なると思います。

更に、少し先の戦略になりますが、このような「あり方」を事業の目的としたリゾートが発行する「宿泊・商品券(「リゾート券」)」*(5) は、実質的に税務上損金参入可能な「寄付金」として機能するため、この「リゾート券」は、人に対する贈り物として高く評価されるかもしれません。更に、この「あり方」に賛同する(沖縄地区の)お店や企業が、やがて自社商品を「リゾート券」で決済することを受け入れてくれることで、「リゾート券」は実質的に地域通貨として機能することになります。「リゾート券」を地域通貨として捉えた場合、その革新的な通貨設計は、現在の不兌換通貨(主要国通貨)とそれに付随する利子が社会に与える多大な悪影響、実質的に機能不全になっている多くの地域通貨の欠陥双方をクリアするものです。この通貨には利子が付かないので溜め込む理由に乏しく、頻繁に利用され、通貨の回転率が上がり、発行量を増やさなくても経済を大きく活性化させる効果を生み出します。この「通貨」はリゾートの利用権を裏付けとしていますが、その売上の全ては前述のように、「社会を良くする事業メカニズム(第二の経済)」で再配分されるため、この「通貨」が実質的に裏付けとしているものは、我々の「より良い社会」です。「通貨」が発行・流通すればするだけ社会が改善するという画期的な通貨設計であると同時に、発行時に発行者が著しく不均等な利益を得るという不兌換紙幣の欠点が大きく緩和されています。また、この「通貨」は、自然な生産方式による農産物や地域事業を実質的に一部裏付けとしているため、将来、世界基軸通貨(ドル)や主要国通貨の暴落・ハイパーインフレーションなどに起因して国際社会が万一大混乱に陥るような状態において、有効なヘッジ機能を持つ「第二の通貨」であり、このとき地元経済を健全に維持する恐らく唯一の方法ではないかと思います。

このような 「リゾート券」の発行・流通は、事業と社会の質を追及し、一切お金を追わない「在り方」によって初めて可能になり、結果として、事業の質の平準化を伴い莫大な利益を生み出し、それがまた社会に還元されるという循環が生まれます。お金を追わないことがお金を呼び込む、「第二の経済」メカニズムの典型といえるでしょう。更に、リゾート会社株式を地域の個人投資家に幅広く保有してもらい、リゾートで開催される年一回の株主総会が世界中から来賓を呼んでの大きなイベントに進化すると(もちろん規模は比較になりませんが、イメージとして、バークシャーハサウェイ社の株主総会のように)、それもまた地域の観光資源になるのではないでしょうか。

【2009.7.24 樋口耕太郎】

*(1) 先進国の中産階級は過去50年間、「共同体の崩壊 → 大家族の崩壊 → 核家族の崩壊 → 母子家庭」 という道筋を辿りながら、家計収入と社会的な支えをどんどん失っていますが、アメリカでは特に90年代以降、家計の金融資産はおろか生活するための収入が不足したため、不動産ローンや消費者金融によって将来収入を取り込んだところ、昨年からのサブプライム危機によって、とどめを刺された形です。アメリカのオバマ政権はこれから70兆円を費やして非常に危険なグリーン・ニューディールという大博打(景気対策)を打とうとしていますが、以上の現状分析から、景気の「回復」はそもそも起こりえないかも知れない、というのが私の予想です。経営者が今後の事業の舵取りに織り込むべきと、私が個人的に考えている想定は、数年後アメリカの景気が十分に回復せず、膨大な国家負債だけが残され、世界機軸通貨ドルが信頼を失って暴落、ひいては各国主要通貨の暴落に飛び火するというものです。もちろんこれは予言ではありませんし、予測ですらありません。経営者の立場で想定すべき(しかし、ある程度確度の高い、そして万一現実となった場合、事業に多大な影響を与えることが確実な)シナリオのひとつに過ぎませんが、企業は仮にこのような事態が生じたときこそ、本当の事業力が試されるのだと思います。

*(2) 詳細は「次世代金融論」を参照下さい。ただし、本稿は現在《その16》ですが、完結までにはまだ数ヶ月を要すると思います。

*(3) 「次世代金融論」の今後の稿にて議論する予定です。

*(4) 例えば1997年~2006年にカリフォルニア州に登録された記録によると、ファンドレイザーが代行したチャリティ・キャンペーン5,800件超、調達金額26億ドル(約2,500億円)のうち、その約54%が仲介者の手数料として支払われています。これなどはまだ可愛い方で、慈善団体の取り分は、そもそも寄付総額の20%以下という契約の基で行われたキャンペーン事例が数百件にも上っていますし、例えば、税金の無駄遣いの番人を自認する「政府の無駄を告発する市民の会(ワシントン本部)」が10年間に集めた寄付金約1億円のうち、「市民の会」が直接手にした金額はその僅か6%以下でした。当然ながらこのような事実は、寄付を行う人に開示されることはありません。規模の大小、有名無名を問わず、児童福祉、動物愛護、医療研究、飲酒運転反対運動など、様々な慈善団体にこの問題は広がっています(クーリエ・ジャポン、2008年10月号などを参照しています)。アメリカ国内ですらこの状態で、国際的な寄付活動、特に貧困国に対する活動は更に非効率です。

*(5) テクニカルな点ですが、商品券の発行は誰でも自由に行えるものではなく、「前払式証票の規制等に関する法律」などによって一定の規制が課せられています。案件の進行に伴って、多様な可能性を検討しながら、最適な金融ストラクチャーを開発することになると思い ます。