沖縄大学人文学部国際コミュニケーション学科専任教員(准教授)就任に伴い、挨拶文を添付致しました。ご高覧頂けると幸甚です。

【2012.4.14 樋口耕太郎】

在沖米国商工会議所の6月月例会(6月5日金曜日)にて、以下の概要で講演を行います。

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Kotaro Higuchi will be the presenter at the American Chamber of Commerce in Okinawa’s monthly General Membership Meeting for June.  Attached is the Japanese version of presentation summary for Japanese audiences.

売上目標がない! 研修制度は全廃! 流行のクレドもない! 顧客満足度も目指さない! 上司の唯一の仕事は「部下の役に立つこと」。社長は1ヶ月間他の仕事をせずに、250人の全従業員と一人30分の面接。また時には、厨房で丸一日仕込みの丁稚奉公(下の写真参照)。人間関係が何よりも(仕事よりも!)優先され、成果主義・収益主義・能力主義の一切が組織から消えた。役員を含む全ての従業員の給与・昇給・昇格・役職を決めるのは、「人間的な成長」、「どれだけ人の役に立ったか」の二項目だけ。夫婦喧嘩が遅刻の理由として認められ、「自分の好きなことだけをしてください」と全従業員に明言する企業が、数年前、沖縄に存在していたことをご存知でしたか?

沖縄県恩納村の老舗リゾート、サンマリーナホテルを取得し経営を引き継いだ樋口は、ウォール街仕込みの熱血管理経営を始めるが、沖縄の従業員にしてみれば、オーナーが代わるたびに本土からやってくる、毎度の「ナイチャー経営者」。やがて、組織から完全に浮き上がった「ばか殿」社長が、それまでの経営方針と自分の生き方を完全に覆し、資本主義の常識と正反対の経営を試みる。「企業は人間関係」と定義し、人間関係を最優先する方策を次々と実行。人への思いやりを、事業の手段ではなく、目的にするために、東京本社には内緒で、利益目標、売上進捗管理、人事の成果主義・能力主義を完全に廃し、「いま、愛なら何をするだろうか?」を企業理念かつ事業唯一の目的に。

その直後から、顧客満足度が爆発的に上昇し、旅行代理店からは、「最近のサンマリーナはいったい何をしたんですか?」と問い合わせが続き、熱狂した地元のオジーは誰に頼まれもせず、手塩にかけて育てた花木をホテルに持ち込む。10年以上実質的に赤字経営だったサンマリーナが、僅か1年足らずで経常利益1.3億円、営業キャッシュフロー2.3億円の超優良会社へといかに変容したか。そして、「成功しすぎた」サンマリーナが、取得から僅か2年で倍の価格で外資に転売され、それに抵抗した樋口が解任されるまでのお話。

【2009.6.3 樋口耕太郎】


サンマリーナ洋食厨房で一日丁稚奉公
社員が面白がって写真を撮ってくれました

何人かの方々に社名の意味について聞かれました。トリニティという言葉は比較的一般的なものですのでご存知の方は多いと思いますが、英語で「三位一体」という意味で、世の中には他にも沢山のトリニティが存在します。数年前にヒットした映画マトリックスのヒロインでネオと一緒に人類を救う伝説のハッカーの名前はトリニティです。アルマゲドンで文明が滅んだ遠未来を描くトリニティ・ブラッドというアニメもあります。トリニティというスピリチュアル系の雑誌も最近比較的流行しているようですし、ビジネスの世界ではカネボウの事業再生の受け皿となった持ち株会社名はカネボウ・トリニティ・ホールディングス株式会社、日本風に言えば「三和株式会社」といったところでしょうか。Jリーグの大分トリニータは商標登録の関係で現在の名前になる前は大分トリニティでした。

海外では、ウォール街と旧ワールドトレードセンターに隣接するニューヨーク最古の教会がトリニティ教会です。この教会の墓地には初代財務長官のハミルトンや蒸気船を発明したフルトンらが埋葬されているそうです。欧米には「トリニティ・カレッジ」がいくつもあります。核廃絶を求めた「ラッセル=アインシュタイン宣言」で知られる論理学者・数学者・哲学者でノーベル文学賞受賞者のバートランド・ラッセルが学んだケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジをはじめ、ウェールズ大学のトリニティ・カレッジ、100年以上の歴史を持つロンドンの音楽院の名門トリニティ音楽院、その他エリザベス一世が創立したアイルランド最古のダブリン大学トリニティ・カレッジ、カナダのオンタリオ州ポートホープ、アメリカではコネチカット州ハートフォードにも・・・。調べていけば恐らく他にも沢山存在しそうです。

トリニティという名称を思いついたきっかけ自体は直感的なものです。起業のときに3ヶ月近くも散々考えた末、オフィス近くにある風力発電の三枚羽を見ていたときに頭に浮かびました。ただし、この言葉の意味合いを考えると、シンプルでありながら、実に味のある深い言葉だということをしみじみ感じており、とても気に入っています。

トリニティが象徴する重要な概念は「バランス」です。一見それぞれが独立していたり、対立するように見える(三つの)物事を、ひとつのまとまりとして、つまり調和とバランスのとれた集合体として捉えることで、まったく異なった水準の付加価値を生むことができるかも知れないというイメージがあります。「心と体と魂」、「心技体」、「顧客・従業員・株主」、沖縄のホテル業界であれば「ホテル・航空会社・旅行代理店」、沖縄の文化では「うちなーんちゅ(沖縄人)・ないちゃー(本土人)・米軍」・・・。特にトリニティ経営理論では従来の「ヒト・モノ・カネ」という財務諸表上だけの矮小化された概念ではなく、「顧客資本・人的資本・株主資本」のようにバランスシートを超えた企業価値を認識し、そのより大きなバランスをとることがポイントの一つになっています。また、トリニティの概念のすばらしいところは、三つの独立した存在の調和をとるだけではなく、これらの姿を変えた三つの要素が実は利害を全く一にした同一の存在である、という意味を含んでいることです。

また、沖縄において(実際はどこでもそうだとは思うのですが)スピリチュアリティが生活と、したがってビジネスの一部であることもインスピレーションになっています。以上を、パートナーの末金はこのように表現しています:

「例えば、重力が宇宙をまとめる糊だとしたら、バランスこそが宇宙の秘密を解く鍵となる。バランスは私たちの心と体と感情に、私たちの存在の全てのレベルに関係している。私たちは何をする場合でも、それをやりすぎることも、やらなさすぎることもありうるということ、そして生活や習慣の振り子が大きく一方に振れたときには、必ずもう一方にも振れるということを、バランスは私たちに思い出させてくれる。」

トリニティという名称の命名において、はっきりした「三つのもの」というのは特定されているわけではありません。ただしそれゆえにより深くよりシンプルにより重要な点において意味を持つ、ということはあるかも知れません。

【2006.12.2 樋口耕太郎】

トリニティアップデイト はトリニティ株式会社(「トリニティ」)によるブログセクションです。執筆者は樋口耕太郎と末金典子です。主なテーマは、①トリニティウェブサイトで表現しきれない応用概念、経営各論、具体事例の補足、②トリニティの企業理念「いま、愛なら何をするだろうか?」を、経営・事業環境で応用するための具体的な議論、そして経営とは切っても切れない、③人とは、生き方とは、人間関係とは、より良い社会とは、人と事業と社会の関わり、などです。

大半の投稿は、テーマごとに一続きの文章として構成されているため、一つのテーマにつき一つの「アーカイブ」表題が割り当てられています。ご希望の表題を選択することで、一続きのテーマごとにお読み頂けます。それぞれのテーマの初めのページでは、そのテーマの一連の投稿を一つにまとめたpdfファイルをダウンロード頂けますので、pdf形式をお好みの方はご利用ください。

トリニティアップデイトおよびトリニティ株式会社ウェブサイトに掲載されている全ての内容は公開情報ですので、必要に応じて資料のダウンロード、引用、サイトへのリンクなどご自由になさって頂いて構いません。ただし、引用に際してはその旨を明記頂けると幸甚です。全ての投稿内容は、予告なく変更されることがあります。

トリニティは、ホテル、金融、航空会社などの労働集約的サービス業を対象とする、事業再生・経営受託の専業会社です。詳しくはウェブサイト会社概要などを参照ください。

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ウェブサイト作成の辞退者が続出
このウェブサイトは完成するまでに実に10ヶ月を費やしています。トリニティの会社設立が今年2月3日ですが、それとほぼ同時にウェブサイトを作成しようと考え、自分たちのつてや、紹介を頂いたりしながらウェブサイト作成をして頂ける方とお会いし始めました。作成に関心を持っていただいた方には、実際にお会いして、僕たちがウェブサイトを通じて(あるいはウェブサイトに関わらず)伝えたいこと、伝えたくないこと、僕たちがこのような事業を行うことに至った経緯や出来事、僕たちの事業の目的、なぜそのように考えるか、などを2・3時間くらいかけてお話します。長時間話すのが良いというわけではないのですが、トリニティの事業の背景を聞いてもらおうと一旦話し始めたら最後、気がつくとかなり時間が経ってしまっていることもしばしばで、一部おもしろがって聞いて頂いた方はいるかも知れませんが、内心閉口していた方も少なくなかったかも知れません。

何社に話を聞いていただいたか正確に覚えていませんが、結局みごとなくらいに軒並み断られました。やんわりお断りいただくのはいい方で、人によっては二度と連絡を頂けなかったり、かなり間の悪い間隔があって相当食い違った気まずいプレゼンテーションになってしまったり。始めは熱心に聞き入っていただける方も、だんだんとクライアント(僕)の暑苦しさに押されて、「これは厄介なものに足を踏み入れてしまった」と考えられたかどうだか。

このような惨憺たる状態に陥ったため、数ヶ月経った頃にはウェブサイト作成はほぼあきらめていました。積極的に依頼先を探すことをすっかり止めてしまったころに、今回の作成者、株式会社クリエイターズユニオン の吉田正男さん、打田武史さんに偶然お会いしたことから、ようやくウェブサイトの完成に至ります。クリエイターズユニオンはCMや映画などの芸術的な映像作成が主力ですが、彼らのように映像技術とデジタルメディア双方を理解する質の高い社員を擁しています。美しく機能的な作品を生み出すだけでなく、クライアントの考えにじっくり耳を傾け、より良いものは何かを一緒に追求する真摯な姿勢が本当にすばらしいと思いました。

代理店泣かせ
実は、このような経験は初めてではありません。サンマリーナホテルの経営をしていた時に独自の新聞広告のシリーズを行おうと考え、多くの広告代理店さんと今回のウェブサイト作成と似たような状況に陥ったことがありました。また、細かいことでは名刺の作成ひとつでも印刷会社さんにさんざん作業をさせてしまったことがあります。昔からクリエイターや業者さんにとっては「無理難題かつ意味不明の仕事を発注する不可解かつ悩ましいクライアント」のようです。

僕たちが広告などを発注するたびに「悩ましいクライアント」現象が起こる原因はなんとなく分かっています。一般的な広告代理店業務は「クライアント企業や商品のイメージを高める目的で、ウソにならない範囲で(あるいは多少のウソが混じっても)お化粧をして消費者に伝える作業」、でありがちな反面、僕たちはウェブサイトでも、新聞広告でも、名刺ひとつでも、メディアと広告が果たすべき最大の役割は、企業の本心を表現することだと考えているためだと思います。僅かな違いのようですが、両者は根本的に異なる性質のものです。興味深いことに代理店の方からは「おっしゃることは分かりますが、本当に伝えたいことはなんでしょう?」という趣旨の質問を頻繁に受けました。どうやら僕たちの「本心」が本当に本心だということが信じられなかったようです。

僕たちの考えに基づいて広告(やウェブサイト)を構成するということは、広告代理店(やウェブサイト作成者)にとっては、消費者の視点よりも企業の自然な在り方への理解を優先し、「プロの仕事」をするよりも企業に共感する必要が生じ、納期を厳守するよりも自分らしく楽しく作業することを優先し、優れたデザインやスタイルを生み出すよりもウソのないありのままの企業の考え方を深く理解する必要が生じます。つまり、「企業のお化粧をそぎ落とし、企業の真実を探し、理解し、そのエッセンスを抽出して広告というメディアで表現する作業」といえると思います。こんな話になってくると、大概のクリエイターさんは、「訳がわからん」という気持ちになってくるのも確かに無理ありません。

真実と広告効果
このような「こだわり」には事業的な根拠があります。既に始まっている今後の社会では、情報の質、特にその情報が真実であるかどうかによって、伝達される範囲、速度、コストに想像を絶するほどの差が生じるためです。

そして、情報の伝達範囲、速度、コストが大きく変化するということは、企業における販売とマーケティングのあり方が根本的に変るということを意味します。僕は、ひょっとしたら販売とマーケティングの概念が近い将来殆ど不要になるのではないかと考えており、その可能性を勘案しながら事業戦略を構築しています。実際僕が経営を担当していた頃のサンマリーナホテルではこの点に途中から気がつき広告宣伝を大幅に削減したのですが、ホテルの評判の向上に伴って顧客が増加し続ける現象が生じています。現在の一般的な企業において販売とマーケティングがどれほど重要な経営課題として位置づけられているかを考えれば、その変化が企業に与えるインパクトは相当なものになるでしょう。

シンプルな経営
真実であるということは飾られてないということでもありますので、ウェブサイトなどの作成に当って、いかに情報をそぎ落とすかということが重要な作業になりました。重要なことは、広告が真実であるためには、経営そのものがシンプルにデザインされていなければならないと言うことを意味し、広告とメディアが事業と経営と一体化する現象が生じます。事業と経営のあり方そのものが広告、販売、マーケティング機能を持つと表現した方が正確かも知れません。このような企業では、今まで事業の一部門だった広告機能が限りなく経営に近くなることになるでしょう。

経営において、いかに加えるかというテーマに取り組み実行することは比較的容易ですが、運営機能の一部を効果的にそぎ落とす決断は非常に難しいものです。しかしもし実行可能であるならば、効果的にそぎ落とされた運営は、極めて効率の高い事業構造と結果を生み出すでしょう。また加えることは比較的試行錯誤が可能ですが、そぎ落とすためには、本当に事業の細部かつ全体のバランスについて知り尽くしていなければ実行することは困難だという面白みがあります。

例えば、5つのレストランを有する高級ホテルよりも、ひとつのレストランで高級ホテルを経営する(もちろん顧客満足度はあまり変わらずにと言う前提です)方が一般に難しく、もしこれが可能であれば事業効率は飛躍的に上昇します。情報管理にコストと人材を投入するよりも、開示されても全く支障のない事業運営をする方が遥かに高い事業効率を生み出します。人事上の不公平を是正するために細かい規定を構築、運用するよりも、全面開示を前提に運用を行う方がよほど会社を強くします。人事評価を正確にするために人事考課の基準を複雑にするよりも、いっそ一つか二つくらいに減らしてしまった方がフェアな人事が実現します。

バークシャー・ハサウェイ
バークシャー・ハサウェイ はこのような経営イメージが少し重なる会社で(もちろん会社の規模や実績は比較になりませんが)今回のウェブサイト作成に当ってもバークシャーのサイトをいろいろ参考にして見ました。バークシャーは投資家ウォーレン・バフェット氏が経営する上場会社(ニューヨーク証券取引所)で、連結総資産2100億ドル(約27兆円)、連結総売上810億ドル(約10兆円)という、破格に成功した投資会社の代表銘柄でありながら、一貫して本社をネブラスカ州オマハという田舎都市に置き、連結従業員約19万人を擁しながら本社職員は役員を入れて17名であるなど、非常に独特な価値観によって経営されています。ホームページをご覧になって頂ければ明らかですが、飾り気のない(ダサい?)実質本位の構成は却って新鮮に感じます。デザイン的には美的でも何でもないのですが、企業の在り方を表現するという視点においては、考え抜かれた無駄のない構成だと思います。日本の大企業がこのように素朴なホームページを作成することを想像できるでしょうか。

バークシャーの年次報告書は金融業界や経営者からも毎年注目されていますが、そぎ落とすということが経営においてどのように価値を生むかについて考えるいい参考資料でもあります。年次報告書の中でもバフェット氏が書いているchairman’s letterは特に有名で『バフェットからの手紙』という書名で日本語も出版されています。

【2006.11.11 樋口耕太郎】