何人かの方々に社名の意味について聞かれました。トリニティという言葉は比較的一般的なものですのでご存知の方は多いと思いますが、英語で「三位一体」という意味で、世の中には他にも沢山のトリニティが存在します。数年前にヒットした映画マトリックスのヒロインでネオと一緒に人類を救う伝説のハッカーの名前はトリニティです。アルマゲドンで文明が滅んだ遠未来を描くトリニティ・ブラッドというアニメもあります。トリニティというスピリチュアル系の雑誌も最近比較的流行しているようですし、ビジネスの世界ではカネボウの事業再生の受け皿となった持ち株会社名はカネボウ・トリニティ・ホールディングス株式会社、日本風に言えば「三和株式会社」といったところでしょうか。Jリーグの大分トリニータは商標登録の関係で現在の名前になる前は大分トリニティでした。

海外では、ウォール街と旧ワールドトレードセンターに隣接するニューヨーク最古の教会がトリニティ教会です。この教会の墓地には初代財務長官のハミルトンや蒸気船を発明したフルトンらが埋葬されているそうです。欧米には「トリニティ・カレッジ」がいくつもあります。核廃絶を求めた「ラッセル=アインシュタイン宣言」で知られる論理学者・数学者・哲学者でノーベル文学賞受賞者のバートランド・ラッセルが学んだケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジをはじめ、ウェールズ大学のトリニティ・カレッジ、100年以上の歴史を持つロンドンの音楽院の名門トリニティ音楽院、その他エリザベス一世が創立したアイルランド最古のダブリン大学トリニティ・カレッジ、カナダのオンタリオ州ポートホープ、アメリカではコネチカット州ハートフォードにも・・・。調べていけば恐らく他にも沢山存在しそうです。

トリニティという名称を思いついたきっかけ自体は直感的なものです。起業のときに3ヶ月近くも散々考えた末、オフィス近くにある風力発電の三枚羽を見ていたときに頭に浮かびました。ただし、この言葉の意味合いを考えると、シンプルでありながら、実に味のある深い言葉だということをしみじみ感じており、とても気に入っています。

トリニティが象徴する重要な概念は「バランス」です。一見それぞれが独立していたり、対立するように見える(三つの)物事を、ひとつのまとまりとして、つまり調和とバランスのとれた集合体として捉えることで、まったく異なった水準の付加価値を生むことができるかも知れないというイメージがあります。「心と体と魂」、「心技体」、「顧客・従業員・株主」、沖縄のホテル業界であれば「ホテル・航空会社・旅行代理店」、沖縄の文化では「うちなーんちゅ(沖縄人)・ないちゃー(本土人)・米軍」・・・。特にトリニティ経営理論では従来の「ヒト・モノ・カネ」という財務諸表上だけの矮小化された概念ではなく、「顧客資本・人的資本・株主資本」のようにバランスシートを超えた企業価値を認識し、そのより大きなバランスをとることがポイントの一つになっています。また、トリニティの概念のすばらしいところは、三つの独立した存在の調和をとるだけではなく、これらの姿を変えた三つの要素が実は利害を全く一にした同一の存在である、という意味を含んでいることです。

また、沖縄において(実際はどこでもそうだとは思うのですが)スピリチュアリティが生活と、したがってビジネスの一部であることもインスピレーションになっています。以上を、パートナーの末金はこのように表現しています:

「例えば、重力が宇宙をまとめる糊だとしたら、バランスこそが宇宙の秘密を解く鍵となる。バランスは私たちの心と体と感情に、私たちの存在の全てのレベルに関係している。私たちは何をする場合でも、それをやりすぎることも、やらなさすぎることもありうるということ、そして生活や習慣の振り子が大きく一方に振れたときには、必ずもう一方にも振れるということを、バランスは私たちに思い出させてくれる。」

トリニティという名称の命名において、はっきりした「三つのもの」というのは特定されているわけではありません。ただしそれゆえにより深くよりシンプルにより重要な点において意味を持つ、ということはあるかも知れません。

【2006.12.2 樋口耕太郎】