9月7日(土)午後6時30分開講、『お金の学校』〜貧困とお金と心の問題を、根元から問う。(クリックして概要をダウンロードできます)

*日程延期となっていた第12回講座(樋口耕太郎)を、7月4日に開講いたします。時間と場所はこれまでと同様、午後6時半〜沖縄大学同窓会館にて。新型コロナウィルス拡散防止のため、同窓会館の収容定員の50%(117名)までが入場可能となりますので、当日会場に参加ご希望の方は、事前に樋口までご連絡をお願いいたします。定員に達した段階で、入場をお断りせざるを得ないのですが、今回は、講義を動画撮影の上、オンデマンド配信を予定しています。大変申し訳ありませんが、そちらにて視聴くださいますようお願いいたします。

主催:社会福祉法人 沖縄県社会福祉事業団
運営:
トリニティ株式会社
期間:
約6ヶ月(9月7日~3月7日)
場所:
沖縄大学 本館103教室「同窓会館」(那覇市国場555番地)。
受講料:
12回講座3万6,000円(消費税込)
受講資格:
業界・職業など不問
お申込み:
本ページ右下の「お問い合わせ」をクリックして、以下の内容をご送付下さい

①お名前
②メールアドレス
③ご所属と簡単な担当業務・役職

*   *   *

貧困はお金の欠如によって生じるが、貧困問題はお金だけでは決して解決し得ない。なぜならば、お金は私たちの心と密接に結びついているからだ。私たちの心を見つめること、心とお金の関係を理解すること、お金が社会に及ぼす影響力を洞察することなしに、貧困と格差の問題を根源的に解決することは不可能である。

お金は処方箋のない劇薬だ。人を助けることもあるが、破滅させることもある。私たちが薬局に出かけて行って、薬剤師からこう言われたら、あなたはどう思うだろう?

「この薬はありとあらゆる症状に劇的に効きますよ。ただ、たとえ少量でも飲み方と分量を間違えると、激しい副作用が生じて、ときには命に関わる大事件を引き起こしたりしますので気をつけてくださいね。砂糖で包まれていますので、とても口当たりがよくて、服用するたびに興奮を覚えるかもしれません。ところで、この薬に処方箋はありませんので、お客様自身が工夫しながらうまく飲んでください。お大事に〜」

この劇薬を服用すると、即効性のある激しい効果と多くの場合深刻な副作用が生じる。急速に気分が高揚し、誇大妄想的な幻覚によって人生が薔薇色に見え、自分が成功者のように感じられ、人間的な成長を遂げた気持ちになる。周囲の人たちが愚かで怠惰に見えはじめ、他人を自由にコントロールできると錯覚し、人を平気で傷つけたり、望みもしないことをしてみたりする。一言で表現すれば、他人の関心に対する関心が薄れて利己的になるのだ。

薬が少なくなってくると気分が落ち込み、新たに処方されると傲慢になる。この劇薬には激しい依存性があり、どれだけ服用しても、さらに多くの薬が必要だと感じるようになる。この劇薬を服用した一定比率の患者は、副作用によって友人を失い、人生の価値を見失い、人を傷つけ、ときには命を縮める。これほど危険な薬ならば、一切関わらなければ良さそうなものだが、そうもいかない。お金が厄介なところは、自分と、自分が愛する人の生活の糧、人生の生きがいを手助けする手段、決済の利便性・・・など、人生に不可欠な成分が実際に含まれているからだ。お金は、人生に不可欠な薬用成分と幻覚成分が混在した麻薬のようなものだ。

お金には実体がなく、所詮紙にすぎない。これに価値を見いだすのは人間である。お金に関わる問題の多くは、お金に対する私たちの認識によって生み出されている。すなわち、お金を知るためには、お金を使う人間を知らなければならない。人間の心がお金によってどのような作用を受けるのか、人間の心がお金にどのような力を与えるのか、そのメカニズムを理解しなければならない。さらに、どんなモノにお金を使っても、結局お金は必ず誰かの手に渡る。つまり、お金は人間関係の一形態なのだ。お金を知るためには、人間関係を知らなければならない。

『お金の学校』は、お金と経済を、心と人間関係(社会)を含めた広い概念で捉えることで、私たちが貧困と格差の本質を学び、人間中心の真の豊かさを追求することへの一助とするものである。

* * *

講座日程と講師: 以下を参照下さい。各講座の開講時間は午後6時30分より(休憩をはさんで3時間程度)。僭越ながら、各講師について樋口がコメントをしました。

第1回 9月7日(土)  金城敏彦(沖縄県社会福祉事業団理事長)/ 樋口耕太郎(トリニティ)

金城敏彦さんが理事長を務める沖縄県社会福祉事業団(「事業団」)は、700人を超える職員を擁する沖縄県最大の福祉事業体です。金城さんは35年間介護現場から叩き上げて理事長に就任された事業団初のプロパー理事長です。福祉の現場では、人間力が何よりも大切だと実感され、昨年度の『命の学校』そして、今年度『お金の学校』の設立に力を尽くしてくださいました。

樋口は第1回、第12回(それぞれ180分)の講義を担当します。

第2回 9月21日(土)☞台風のため日程変更 2月1日(土) 慎泰俊 しん・てじゅん(五常・アンド・カンパニー社長/NPO Living in Pease代表理事)

慎泰俊さんは、乙武洋匡さんのルポ池上彰さんとの対談昨年8月のForbesの表紙とカバーストーリーなど、権威あるメディアで数多く取り上げられていますので、ご存知の方も多いと思います。昨年は、佐山展生さんとの対談イベントも開催されました。現在は一般の講演はお受けしていらっしゃらないそうですが、『お金の学校』には特別なご好意で参加くださることになりました。

慎さんは、モルガン・スタンレー証券、ユニゾン・キャピタルと金融業界の王道を進まれてきたキャリアとは裏腹に、「異色」という言葉が陳腐に感じられるくらいの個性が輝いている方です。私の言葉で表現すれば、この業界の異端児であり、資本主義経済の先を見据えるビジョナリーであり、自由を心から愛する真のリベラルであり、自分自身と戦い続ける求道者であり、弱者の心に寄り添う思いやりの人であり、同時に、自分が心を定めた目標のために、徹底してコミットするリアリストでもあります。

在日朝鮮人社会のエリートとして将来を嘱望されながら、自分の愛するコミュニティーを飛び出す決断をしたこと、日本に生まれ育ちながら帰化せず、朝鮮籍のまま(形式上無国籍)パスポートを持たずに世界中飛び回っていること、などなど、彼の生き方は、私たちの心をざわつかせ、情熱と、葛藤と、喜びと、悲しみを同時に湧き上がらせる何かがあるのです。

『働きながら社会を変える』15歳からのファイナンス理論入門』 『未来が変わる働き方』 『正しい判断は最初の3秒で決まる』ほか、多数の著書をお持ちです。

第3回 10月5日(土) 武藤北斗(パプアニューギニア海産工場長)

武藤北斗さんは、出退社自由、休みも連絡不要の工場を運営していることで全国的に知られています。この工場では、無連絡の欠勤が認められていますので、その日の朝になるまで、何人が出勤するのか分からない、という独特な経営スタイルで成功しています。

パプアニューギニア海産はオーガニックの天然エビの販売を行う大阪の会社です。私ごとですが、当社の天然エビは、我が家の食卓には欠かせない一品で、そのあまりの美味しさに感動したいちファンとして武藤さんへ直接ご連絡を差し上げたのが、おつきあいのきっかけでした。それ以来、私は、武藤さんの天然エビ以外のものを購入したことがありません。皆さんも、もしよろしければ、ぜひその迫力ある美味しさを体験してみてください

私の経験上、これだけ心に響く製品を生み出すためには、必ず経営的にも何か特別なことがあるに違いないと直感して、武藤さんの事業を調べ始めて、彼の「フリースタイル」と呼ばれる経営スタイルにたどり着きました。武藤さんの経営哲学は、「経営の常識」と「人間らしさ」が対立するときには、後者を選択するというもので、人間一人ひとりが自分らしく働ける環境を作ることが、経営の最優先課題だというものです。今後益々、最先端の経営として、大いに評価されるようになるでしょう。

自分らしく生きる際に、最も障害になることの一つが同調圧力ですが、例えば、子供が熱を出したので、会社を休みたい、しかし、同僚に申し訳ないので出社しなければ、という板挟みの苦しみは「出社することが当たり前」という価値観が作り出しています。いっそ、「出社しなくて当たり前」という環境を作ってしまえば、板挟みの苦しみは消え、心から明るい気持ちで仕事に向かうことができ、結果として労働生産性が飛躍的に向上する、という現象が生じ得るのではないでしょうか。

著書に『生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方』があります。

第4回 10月19日(土) 影山知明(クルミドコーヒー店主)

影山知明さんは、東京大学法学部卒業後、世界最強のコンサルティング・ファーム、マッキンゼー&カンパニーを経て、ベンチャーキャピタル(ソーシャルベンチャーズパートナー東京)の創業に参画するなど、いわゆるピカピカのエリート街道を進みながら、2008年にカフェを開店して、店主になる道を選びます。これが、2013年に「食べログ(カフェ部門)」で全国1位となる「クルミドコーヒー」です。・・・ちなみに、私がこの文章を書いている時点で、食べログに登録されているカフェは63,888軒です。

著書『ゆっくり、いそげ』のアマゾンのページでは、影山さんがなぜ、そのような選択をしたのかが感じられる箇所があります。

働いても働いても幸せが遠のいていくように感じるのはなぜなのか。
金銭換算しにくい価値は失われるしかないのか。
「時間との戦い」は終わることがないのか。
この生きづらさの正体は何なのか。

経済を目的にすると、人が手段になる。

影山さんは、2種類の経済が存在すると考えていらっしゃいます。お金を目的にする経済と、人間を目的にする経済です。資本主義経済は前者であり、人を手段にしてしまっているために、社会に様々な弊害が生じています。影山さんは、人間を目的にする経済を実践されている第一人者と言えるでしょう。影山さんの理論はとことん実践に基づいているために、説得力があります。影山さんの本質は、カフェの店主というよりも、人間経済の創造者であろうと思います。その延長線上に、胡桃堂喫茶店胡桃堂書店クルミド出版クルミドコーヒーファンド国分寺地域通貨「ぶんじ」などのプロジェクトが広がっています。

第5回 11月9日(土) 山本明弘(広島市信用組合理事長・全国信用協同組合連合会会長)

山本明弘さんは、今、日本で最も注目されているバンカーでしょう。これまでも様々なメディアから注目されてきましたが、昨年『NHK プロフェッショナル 仕事の流儀』で取り上げられて、山本さんの情熱と個性が広く知られるようになりました(番組はオンデマンドで視聴できますので、ぜひご覧になってみてください)。

シシンヨーの愛称で呼ばれる広島市信用組合は、地元中小・零細企業への融資に特化した地域金融機関です。金融事業の価値が、事業規模の大きさやテクノロジーで計られがちな時代に、その正反対の経営方針を貫いて、増収増益記録を16期更新中です。ご記憶にあると思いますが、この期間には、100年に一度と言われた国際金融危機(リーマンショック)や、未曾有の災害をもたらした、東北大震災がありました。

シシンヨーの本質は、何よりも人と事業と地域に意識を向けているということでしょう。私の中では「人と向き合うことを何よりも優先する」と決めた会社が、たまたま金融を扱っている、というイメージです。「金融は人なり」と、言葉で語る方は少なくありませんが、山本さんほどその言葉に全霊で向き合っている金融マンは滅多にお目にかかれないと思います。私が広島市の本社にお邪魔したとき、廊下ですれ違う行員や電話応対の職員に至るまで、社員の熱さと、元気さと、丁寧さがあまりに印象的でした。

ゼロ金利からマイナス金利へと、金融市場の環境が激変しようとしています。「金融の本質が人」であるのなら、マイナス金利で生き残る金融機関は、その事業規模に関係なく、徹底して人に向き合う金融機関であると思うのです。

著書に『足で稼ぐ「現場主義」経営 - 頼れるシシンヨーが真骨頂』がある。

第6回 11月30日(土) 西村佳哲(リビングワールド代表・働き方研究家)
*この日の教室は1号館601教室です。ご注意ください。

西村佳哲さんは、ウェブサイト、博物館、美術館の展示、公共空間のメディアづくりなど、様々なデザインプロジェクトの企画、制作、監督を行うデザイナーで、既に国内外で数々の受賞歴があります。

西村さんの特徴は、社会の形を、人が生きるということ、人が働くということ、という視点で発想されていることではないでしょうか。ご著書などには「働き方研究家」という肩書が添えられているとおり、働くことを、単に収入を得るためではなく、自分を生きるための手段として捉え、よき働き方、よき生き方を起点に社会をデザインする、次世代型の社会デザイナーとして、日本の第一人者と言えるでしょう。それは、西村さんご自身が、自分を生かす働きかたを模索してきたからでしょう。独立したときのことを、こう語っていらっしゃいます:

納得のいかない仕事をするのは難しいですが、でもそういう依頼が来たら、自分は理屈を作って正当化させて、やるだろうなと思ったんです。その自分は嫌だな、と。このままだと自分はだめになる予感を覚えて、30歳のときに独立しました。

「働き方」論の先駆としてロングセラーとなった『自分の仕事をつくる』は、柳宗理、八木保、ヨーガン・レール、パタゴニア社、ルヴァン、象設計集団など、様々な「いい仕事」をしている方々を訪れて、彼らの話に深く耳を傾けたところから生まれています。

著書には、文庫になっているロングセラー、仕事や働き方について考える三部作:『自分の仕事をつくる』 『自分をいかして生きる』 『かかわりかたの学びかた』や、奈良県立図書情報館で開催されたフォーラム「自分の仕事を考える3日間」から生まれた三部作:『自分の仕事を考える3日間』 『 みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?』 『わたしのはたらき』など。『みんな、どんなふうに・・・』は、西村さんご自身がインタビューの仕事で最も好き、とおっしゃる一冊です。その他『なんのための仕事?』 『人の居場所をつくる』 『一緒に冒険をする』 『いま、地方で生きるということ』 など多数。

第7回 12月14日(土) 金城拓真(津梁貿易代表)
*この日の教室は1号館601教室です。ご注意ください。

金城拓真さんは、沖縄県北谷町出身。子供の頃から公務員に憧れていたため、普天間高校を卒業後、大学進学を志望しました。彼は冗談めかして「国立に行く頭がなく、私立に行くお金がなかった」とおしゃいますが、韓国の鮮文大学に進学したことが、彼の人生の大転機になりました。2013年のフライデーのウェブ版にその時の経緯が語られています。

「ある日、知り合いのグルジア人学生が、『俺の叔父は、韓国の中古車を大量に仕入れて、グルジアに売ってるんだ』と話していたんです。その話を聞いていたアンゴラ人の兄弟が、『俺たちの国は内戦が終わった直後で、車が全然足りない。アンゴラに輸出すれば、絶対儲かるよ!』と。これはチャンスだと思って、ボクと日本人の留学生、そしてアンゴラ人の兄弟の4人で、中古の韓国車6台を100万円で買い、コンテナに積んでアンゴラに輸出しました。一人当たり25万円出し合ったのですが、学期の初めだったので手持ちの学費を流用したんです(笑)」

この25万円が、結果的には300億円(グループ売上。現在は400億円を超えています)に化けた。3ヵ月後、その現代車は350万円で売れ、〝販路〟を見出した4人は続々とアンゴラに韓国車を輸出した。

2007年、アフリカから韓国に留学に来ていた、金谷君香と共同で津梁貿易を創業しました。彼女は、「8ヶ国語話せるような天才で、アンゴラという国では金谷が来る日は国が休日になるくらいの有名人」。「実務では叶わないから、自分ができることをする」というウチナーンチュ気質の良さが、成功をもたらしている秘訣ではないでしょうか。現在タンザニアを中心に、アフリカ9カ国で50社以上の会社を経営していらっしゃいます。

著書に 『世界へはみ出す』 『「世界」で働く。アフリカで起業し、50社を経営する僕がたいせつにしていること』 『アフリカ・ビジネスと法務』(共著)がある。石川直貴著『プータロー、アフリカで300億円、稼ぐ!』は金城さんの物語です。

第8回 1月11日(土) 尾崎友俐(オリエンタルオーナー)/ 武藤杜夫(日本こどもみらい支援機構代表)

尾崎友俐さんは、日本有数の人材輩出企業リクルートで、そのリクルート社員に向けて人材研修活動を担当した後、「1999年までに会社をつくりたい」という夢を叶えるために、その商材を探りに、タイ、インド、エジプト、オランダ、イタリア、メキシコなど40数カ国を旅しました。帰国後、資金たったの180万円で、手作りの炭火焼店をオープンさせました。

ピーク時には、12店舗を経営し、コンビニへの納品や、国際的な輸出入事業も順調に拡大しました。その最中の2001年、狂牛病が社会問題となり、主力の焼肉店が大打撃を受けて2億円の月商が800万円に激減。同時に、911のテロによって国際事業がストップし、二重の大打撃を受けてしまいます。最悪の環境の中、焼肉を諦め、3日間で焼き鳥店に業態転換を果たしたことは「伝説」となっています。

2002年から人気テレビ番組『マネーの虎』に起業家として出演、2006年には女性総合研究所、起業アカデミーを開催し、全国に非常に多くのファンがいらっしゃいます。現在は沖縄で、飲食店を多数創業されていらっしゃいます。

武藤杜夫さんは、沖縄の貧困の中心で心の活動されているキーパーソンです。

小学校では6年間皆勤賞で人気者だった武藤さんが、「中学に上がったとたん、規則でがんじがらめの狭い世界に閉じ込められたように感じて、息苦しくてしょうがなかった」とおっしゃいます。「『世の中そういうもんだ』って受け入れてる同級生が全員バカに見えて、誰にも心が開けなくなり、どこにも居場所がなかった。家も学校も地域も、刑務所みたいに感じていました」「中学校時代は教室にほとんど入らず、髪を染めて、違反制服を着て、ポケットにナイフを忍ばせて、教師たちに猛反発し、悪いことはした」といいます。

「何度も家でを繰り返し、ヒッチハイクで車を100台以上乗り継ぎ、福島、宮城、岩手、青森、山形、秋田、北海道まで行ったことも。駅や橋の下で寝ていると、知らない人に声をかけられて、ご飯を食べさせてもらったり、家に泊めてもらったり、世の中のいろいろなことを教えてもらったり・・・。旅で出会うもの全てが僕の先生でした」武藤さんの「物語」は、琉球新報スタイル「少年院を日本一の学校にする」「立ち上がれ、少年院の『卒業生』たち」をぜひご参照ください。

私(樋口)の経験では、いわゆる不良や落ちこぼれは、自分の気持ちに嘘がつけず、社会の矛盾に迎合できず、ルールに反発する、というケースが多いと思います。いじめられっ子も、意外に魅力的な子供が多い。その魅力ゆえにターゲットになって潰されるのです。武藤さんは、そんな、自分に嘘をつけない子どたちの気持ちを、心から理解できる、数少ない大人の一人です。

第9回 1月25日(土)佐山展生(スカイマーク代表取締役会長・インテグラル代表取締役パートナー・一橋大学大学院教授)

佐山展生さんは、日本におけるM&A(企業合併・買収)の第一人者として知られていますが、どんなに成功しても現状に拘泥せず、常人が夢見るような地位をいとも簡単に、何度も、捨て去ってきた異色の人物です。佐山さんはよく「人生はおもしろい。しかし、おもしろくするのは自分次第」とおっしゃいます。

日本にM&Aという用語が存在しなかった1987年、そしてまだ転職が珍しかった頃、10年以上務めた帝人での高分子化学技術職を辞し、全く畑違いの三井銀行で日本で最初のM&A業務に参画されました。ニューヨーク勤務時代、米州のM&A事業を統括する激務の合間を縫ってニューヨーク大学の夜学でMBAを取得したのが40歳。帰国後、東京工業大学で博士課程を、これも夜学で終了されたのが45歳と、学び続けるパワーは人並み外れています。

日本で初めて、いずれの金融グループにも属さない独立系バイアウトファンド(ユニゾン・キャピタル)を創業されたのが、同じく45歳。当時日本では実現不可能だと考える人が殆どでした。アスキー、東ハトなどの有名再生案件を手がけましたが、代表パートナーの地位をあっさり手放し、M&Aの独立系アドバイザリー会社GCAを立ち上げ、設立からわずか2年半で上場させてしまいます。村上ファンドから阪神電鉄・阪急を防衛した案件は有名です。これらの業務の傍ら、報道ステーションなどのコメンテーター、フォーブスのインタビューアーほかマスメディアにも多く登場し、一橋大学大学院などで教鞭を取られています。そのGCA代表の肩書きも早々に譲られ、徹底して投資先と従業員を第一に考えるファンド、インテグラルを設立されました。2015年に破綻したスカイマークの再生はその事業の一つで、支援を開始した時には、早期退職者すら募集しませんでした。佐山さんが経営を引き継いで以来、定時運行率全航空会社中1位、4期連続で増収増益、売り上げは過去最高を記録しています。

第10回 2月8日(土)松浦弥太郎(くらしのきほん主宰・エッセイスト)

松浦弥太郎さんは、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の舞台となった、伝統ある『暮しの手帖』の3代目編集長として知られています。大橋鎭子社主(とと姉ちゃん)から直接請われたとはいえ、カリスマ編集長だった花森安治の偉業を引き継ぐことは並大抵のことではなかったと思います。伝統ある会社の事業承継は、どうしても偉大な先代の影に霞んでしまいがちですが、松浦さんは、自分を活かしきることで、全く新しい『暮しの手帖』を作り上げました。「自分を活かすからこそ、伝統が引き継がれる」、見事な、そして稀な事例だと思います。

松浦さんの文章は、それはそれは温かく、優しさと思いやりに溢れていて、いつも丁寧に、紡ぐように、言葉を使われます。生き馬の目を抜く編集の世界で、目の前の、小さなことに、立ち止まり、思いをかける、そんな編集方針を貫かれた方を、私は他に知りません。

昨年出版された著書『1からはじめる』の冒頭で、松浦さんはこう語っています:

「すてきな人になるにはどうすればいいんだろう?」
「なんであの人は成功しているんだろう?」
「なりたい自分になれなくて、つらい」
すてき、成功、なりたい自分の定義はとてもむつかしくて人それぞれですが、どんな定義であろうと、多くの人にとっての願望であり、羨望であり、夢だと感じます。
そのすべてをかなえるのが、「1からはじめる」。
ただ、これだけです。

編集長を9年間務められ、当社を事業的にも再生した後、ご自分の地位をあっさり手放し、インターネットメディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務められています。

松浦さんは、とても紹介しきれないほど、多くの著書がありますが、お金に関する本(『松浦弥太郎の新しいお金術』)も一冊出版されています。

第11回 2月22日(土) 真山仁(小説家)

真山仁さんは、「今、日本がどんな国なのか、わからなくなっている」とおっしゃいます。「バブルが弾けるまでは『がんばったら報われる国』という答えもあり得ました。それが完全に無効になった今、われわれはもう、どう生きたらいいのかわからなくなっている。そんな、行く先が見えない時代に小説を書いていることは、非常に恵まれていると私は思っているんですね。自分がこの社会をどう考えるかによって、小説のきっかけがどんどん生まれてくる」

260万部を販売したハゲタカシリーズなど、真山仁さんは経済小説家として知られていますが、そのご本人は「自分は経済が嫌いだ」とおっしゃいます。「人が作る社会なのに、すべてを数字に置き換えていく発想が、どこか経済にはある。小説としては、数字に人が挑んでいく物語を書きたいと思った」と。(ダイヤモンドオンライン参照)。

経済が人の欲望の結果だとすると、人がお金で転ぶ理由を知るためには、人を描く必要があります。「経済嫌い」の真山さんが、人を描くことで、経済を表現する。それが人気の理由なのかもしれません。

真山さんも、本当に多くの著書を出版されていらっしゃいますが、それだけにとどまらず、多数の作品が、映画化、ドラマ化されています。

第12回 3月7日(土) 樋口耕太郎(トリニティ)

樋口は第1回、第12回(それぞれ180分)の講義を担当します。

*   *   *

『お金の学校』について: 私は長い間金融業界に身を置きましたが、その間、お金を増やすことについて多くを考えてきたものの、お金が私たちの人生と社会にどのような影響を及ぼしているのか、お金を使うとはそもそもどういう意味を持つのか、人はなぜお金で失敗したり成功したりするのか、そもそもお金と成功との関連とは何なのか・・・など、お金に関する根源的な問いに向き合うことはありませんでした。私たちは、日常的にお金を扱っていながら、お金の本質を知らないのです。

そこで、お金と経済と、そしてご自分自身に深く向き合っていらっしゃる各分野の日本のスーパースターを沖縄にお呼びして、お金と心の問題を根源的に問うてみたいと思ったのです。

「人間中心にお金を考える」というテーマで沖縄から発信することには、大きな意味があります。自尊心の低さ(つまり、自分らしく生きられない、ということですが)は沖縄社会で顕著であるように思え、お金に対する深い罪悪感のようなものがこの社会には根深く存在します。そのことが、沖縄が貧困社会であることの重大な原因になっていると私は考えているからです。

たとえば、以前私が有機野菜の卸の経営支援をしていたとき、そこで働くパートの女性たちと長時間話しをしたことがありました。彼女たちが私に告白してくれたのですが、「自分がこの会社で働いていることを、自分の友だちにずっと隠している」というのです。有機農産物は生産に手間暇がかかるために当然小売価格も割高になります。だから、同じキャベツを50%も高く売る「ぼったくり」企業で働いていると思われたくない、というのです。彼女は、「私なんかは、こんなところでしか働けない」という気持ちを強く持っていて、最低時給の非正規雇用で手取り10万円足らずで働き、子供を育ているのです。

そのとき私は、貧困とは経済問題ではなく、人と心とお金の問題だと直感したのです。だから、貧困の解消と社会の再生のためには、お金と心に向き合うということへの働きかけがどうしても必要だと思うのです。

『お金の学校』はお金と経済を通じて、人を、心を、見つめる学校です。心に関心を持ち続けたプロたちの話に耳を傾け、彼らの生き方から学ぶことが、より良き人間関係、ひいてはより良き社会の実現につながることを願っています。

樋口耕太郎