1.背景

有機農業はもともと生産が安定せず、膨大な手間がかかる上に、生産物の売買市場が未成熟で、国や公共団体からの支えも事実上存在せず、社会からは異端扱いされて孤立するなど、強い情熱を持った有機農家であっても、生活を成り立たせることは容易ではありません。沖縄県の農業生産920億円のうち、野菜、果実、穀類の生産額は200億円。これに対して有機生産額は推定2億円、全生産額の1%に過ぎません。安売りが最優先され、品質が殆ど評価されてこなかったこれまでの市場で、割高な有機野菜を販売する努力は並大抵のことではありませんでした。沖縄の有機農家も、公務員などを定年し、年金を受け取りながら生産活動を行うのが一つの典型で、純粋に有機農業だけで採算が取れる農家は少数です。これまでの有機農業は、①生産者数も生産量も僅かで、②市場が値段だけを見て質を評価してこなかったため、流通・換金が困難で採算が取れず、③社会的な理解と認知が少なかったために、孤立した、極めてマイナーな産業でした。

一方で、資本原則と競争原理によって経済成長だけを追い続ける現代社会のあり方が、人間の体と生理機能を蝕んでいることは周知となりつつあります。スーパーなどで流通している大半の食材の生産・加工過程では、大量の農薬と添加物が複合的に利用されていますが、その殆ど唯一の理由は、企業や生産者が利益を確保するためであり、消費者の健康には「問題ない」の一言で全てが片付けられています。昔は殆ど聞かれなかった、花粉症、アトピー性皮膚炎、精神疾患、生活習慣病などが無視できないほどに広がりを見せていますが、その主因が食事を中心とした社会のあり方そのものにあるのではないかと疑う人は確実に増加しています。医療の進歩によって、世界一の高齢化社会を実現した日本ですが、その約半数は病人です。病院通い、薬漬けの老後を送る人生が社会の平均的な姿となり、医療と福祉によって国家財政は破綻に瀕しています。国民を健康にすることが真の医療であるならば、それはすなわち、「心からやりたい仕事」を優先して、「やらねばならない」労働時間を減らし、大家族と共同体を復活し、社会に人間性を取り戻すこと。そして、環境を正常化し、化石燃料に過度に頼らない自然な作物の地産地消を進め、「便利」な添加物食品の代わりに毎日自分で料理を作り、愛する人と一緒に、心から味わって食事をすることこそが、医療と呼ぶに相応しいと言えるでしょう。

僅か数年前には考えられないことですが、有機農産物や安心安全で美味しい食材が、近年急速に注目されています。これは、単に食の問題だけではなく、自然な農産物には、社会の重大問題の多くを改善する力があるからだと思います。生活の一切を見直して質の高い食材に切り替えると体調が良くなり、生活習慣病を含む多くの症状に改善が見られることあります。なによりも美味しい食事によって、食卓を囲む家族や仲間の会話が増え、人間関係が豊かになり、食事がさらに美味しくなる、という循環が生まれます。一度このような質の高い生活を体験した人は、普通の(薬漬けの)食事に戻ることは少ないので、需要は増加する一方です。今では、主要な女性誌を始め、各種イベントや催事、スーパーマーケット、ホテル、レストランなど、至る所でオーガニックがメインテーマとして取り上げられ、有機専門のインターネット宅配業者は急速に業績を伸ばしています。それでも日本は相当遅れている方で、世界的なトレンドでは、高級なサービスを提供する企業ほど安全で高品質な食材と食事を著しく重要視しています。まだ僅かな生産量しかない(そして、現時点では生産量を大きく増やす手段が存在しない)有機農産物に対して、社会全体の需要が集中することは恐らく時間の問題で、遠からず、消費者がいくらお金を積んでも、特別なルートがなければ入手できない状態になるでしょう。有機農業生産と流通・販売業は、社会再生の最大のボトルネックであり、成熟市場における数少ない超・成長分野なのです。

自然な農業が社会に広がることのメリットは計り知れません。ほんの一例ですが、(1)援農を通じて自然な農業と社会の接点が増えると、鬱の解消、精神医療などの精神の健康に大きな効果があり、(2)激しいインフレーション時には、農産物が実質的な地域通貨として機能し、(3)自然な農作業は、地位や階級が無意味な世界で、人をコントロールしない次世代型のリーダーシップを学ぶ良い機会となり、人間中心の組織運営が組織や社会に広まり、(4)農作業を通じた共同体の復活によって自殺、虐待、孤独死などが減少し、(5)栄養価が高く自然な食を社会がとりもどし、(6)自然な農業は高度に知的かつ楽しい労働であり、生きがいを社会に提供し、(7)自然の移り変わりと社会の接点を取り戻す効果があり、(8)生活の損益分岐点が下がるため、「稼ぐため・お金のため」の労働を大幅に縮小する効果があり、(9)食生活が豊かになることで、家族の接点が高まり、ひいては教育、介護などのコストが減少し、(10)共同体が再構築され、人間関係が豊かになることで疾病率が大幅に減少し、介護保険、社会保険、医療保険などの社会費用が削減され、そして何よりも、社会が健康になります。今まで分断されていた社会と農業の繋がりが再構築されれば、他にも多くの効果が複合的に生まれると思われ、社会全体のコストを著しく下げながら、大きな生産性が生じるのです。

過去60年以上継続してきた、「経済成長によって百難隠す」ような、資本主義的な社会運営が不可能になろうとしています。その代わり、社会全体のバランスを再構築して、良好な共同体と人間関係によってコストを下げ、経済成長によらずに直接国民の幸福度を上げる社会になる。そのときに最も力を発揮するのが自然な農業です。


2. 問題の本質

有機農業の生産性を高め、生産額を飛躍的に向上させるためには、単に有機農家を増やすだけでは全く成り立ちません。採算の取れない農家の数をいくら増やしても、マイナスの上塗りになるだけです。政治・行政が行って来たように、農家に補助金を投下しても、生産性の向上には寄与せず、社会コストが増加するだけに終わることは、過去の無数の事例によって明らかですし、現在の政府にはそもそも多くの補助金を投下する余裕はありません。結局、有機農業そのものの生産性を高める以外の方法は存在しないのですが、その最大の「コーナー」が人手なのです。有機農業生産の現場で汗を流しながら、農業生産の特性と一連の作業を詳細に分析すれば、採算であれ、生産量であれ、単位収量であれ、品質であれ、安全性であれ、労働の質であれ、有機農業生産の問題は、十分な労働力がありさえすればその殆どが解消するということがはっきり理解できます。

それほど簡単なことが、今まで解消されてこなかった最大の理由の第一は、報酬の支払い(すなわち金融の問題)でしょう。農家にとっては、労働力が必要な時期と報酬を支払うことができる収穫のタイミングが数ヶ月、場合によっては1年以上ずれることが一般的です。ただでさえ現金収入に乏しく、赤字の農家も多い中、人を雇う資金がなければ、結局自分一人の労働力の範囲で小規模生産を行わざるを得ません。

収穫期に人手を雇う農家は多いのですが、これは、収穫物が短期間で換金され、日当の支払いがそれほど負担なく行えるからです。逆に考えれば、農家はそれ以外の作業について、それがどれほど重要性の高い仕事であっても、人の手を借りることができず、どんどん作業が後手に回り、生産がジリ貧に陥り、補助金が尽きた段階で立ち行かなくなるのです。

借り入れによって、そのギャップを埋めることは理屈上可能ですが、一般的な農家が提供できる担保は限られていますし、特に有機農家であれば、多くの土地は(担保価値のない)借地です。地域で異端扱いされている有機農家が農協からの融資を受けることも事実上不可能です。そしてなにより、自然を相手にする有機農業は、生産量が不安定で、虫や病気の制御を誤ったり、台風が直撃したりすれば、ほぼ全滅の憂き目に遭うことは所与の条件であり、収穫が確実にできるという保証は全くありません。更に、農産物の取引価格は大きく変動し、特に有機農産物の市場はまだまだ小さいため、需給バランスが少しでも崩れると、折角苦労して収穫した野菜を十分に売却・換金できずに、捨て値で処分せざるを得ないこともあります。つまり、借り入れを行う際のリスクが個人で負担できる範囲を超えているのです。

リスクが高すぎて借り入れができず、人件費を賄えず、労働力が慢性的に不足し、生産規模が最小限に留まれば、膨大な労働量の割に十分な収入が生まれず、将来の展望がないまま、縮小均衡の生活を続けざるを得ず、台風などで大きなダメージを受けると廃業、というのがそれほど珍しくないパターンになっています。

一方、自然な農業生産は、十分な人手があれば問題の殆どが解消するだけでなく、莫大な生産性が生まれるという重大な特質があります。例えば、1,000坪(1/3ha)を耕作し、年間売上300万円、収入50万円、廃業寸前の実質的な赤字農家に対して、1週間に一回、10人の援農部隊が手を貸せば、あっという間に10,000坪以上が耕作可能で、農薬や化学肥料に頼らなくても、10倍の生産量(売上3,000万円)を容易に実現することができるのです。

自然を相手にする農業は、①1人が10時間働くよりも、10人が1時間働く方が生産性を生む作業が多く、また、②労働力が必要とされるタイミングに大きくムラがある、という、二つの重要な特性があるため、年間を通じて1人を雇うよりも、1週間に1日、10人の援農部隊の力を借りる方が、遥かに高い生産性を発揮します。10人に支払う報酬額の合計は、日当5,000円としても年間僅か260万円足らずで、これは一人分の人件費と大きく変わりませんが、生産額は10倍になるという、手品のようなメカニズムが現実に機能するのです。


3. 次世代援農プロジェクト

労働というボトルネックを解消するだけで、これほどの生産性を生み出すことができる業界は、製造業、サービス業においても稀で、これは自然な農業生産が秘めている莫大な潜在力の一例です。自然な農業が手間ばかりかかる辛い労働ではなく、人間的で豊かな産業になれば、社会全体へ及ぼす波及効果は計り知れないものになるでしょう。加えて、極めて高い生産性を秘めた自然な農業を、質の高い流通業が支えるとき、本来相性の良いハイエンドの観光産業と融合的に経営されるとき、また、それが次世代の金融事業と一体化するとき、これらの生産性は乗数的に増加し、社会全体を変えるほどの力を持つことになるでしょう。

次世代援農プロジェクトは、有機農業生産の根源的な問題を解消し、数年以内に、現在の生産額を10倍、100倍にする試みです。およそ農業に縁がなかった人たちを含め、幅広い方々に援農してもらい、日当相当額(例えば5,000円)を、事業者が運営する有機無農薬野菜のネットショップのポイントとして付与するものですが、この一見シンプルな仕組みは、以下のように革新的な意味を持ちます。

現金を一切介さない物々交換によって
・ 質の高い無制限の労働力を有機農家に提供し
・ 援農者はいつでも好きな有機産品を取得することができ
・ 大八産業が有機農家に対して人件費相当額を無担保、無保証、無利息で(実質的に)貸付け
・ 有機農家は、収穫後の「あるとき払い」で弁済する

援農者、有機農家、大八産業は三様の役割を果たしながら、それぞれ大きなメリットを受け取ります。

【援農者】は、例えば収穫したインゲン5キロを貰うよりも、実質的に現金同等物(ネットショップのポイント)が報酬として提供され、貰った野菜を腐らせることもなく、必要なときに、必要なだけ、必要な野菜・果物を入手することができます。援農に参加すれば誰もが実感すると思いますが、大勢で参加する楽しみ、汗を流す爽快感、自然の中で時間を過ごす贅沢さ、食事と水の美味しさと会話の楽しさ、自分のペースでハタラク自由な時間は格別な経験です。既に毎週参加することを決めて仕事のスケジュールをやり繰りしている方も多く、日常の気分転換としても、精神的な休息としても、会社の研修プログラムとしても有効だという意見が多く聞かれます。

【有機農家】は大八産業に対して、日当相当額と同等の農産物を(将来)納品します。農家は現金を一切必要とせず、借り入れを行うこともなく、したがって、担保提供も、連帯保証も、契約書類作成も、利息を払うこともなく、パート募集の公告費用や労務管理の一切を必要とせず、援農者の協力を無制限に得ることができ、その「支払い」は文字通り、収穫後のあるとき払いです。農家は金融リスクを取らず、煩わしい労務管理をせずに農業生産に集中することができ、人手が増え、収入が増え、精神的にも、時間的にも、作業的にも余裕が生まれます。

【事業者】は、援農者にポイントを即日付与する一方、農家から野菜が納品されるのが数ヶ月〜1年後です。事業者はこの期間中、農家に対して、実質的に「無担保、無利息、無保証、あるとき払いによる金融機能」を提供するのですが、農家からの納品は仕入れ単価で、援農者に対しては小売価格でポイントを付与するため、無利息であっても十分な利益が生まれます。援農を通じて、有機農家が必要な労働力をいつでも提供でき、農家の十分な生産性を確保することができるため、無担保、無保証であっても貸し倒れが生じることはありません。もちろん、農家の生産額が増加することで、事業者の取り扱い高が大きくのびることになります。


4. 援農と次世代社会

援農プロジェクトは農業生産の分野を超え、社会全体に重要な影響を及ぼす可能性があります。

i 飛躍的な有機農業生産: 援農プロジェクトによって人手の問題がひとたび解消されれば、有機農業の生産性は飛躍的に高まり、沖縄県における有機農産物の生産高が、確実に、著しく、増加します。今後急激に増加する自然な農産物に対する需要に対応し、広く社会に大量供給するための現実的な方法は他に考えられません。このプロジェクトは、小規模農家の経営支援だけでなく、大農場の大規模経営に向いているのですが、沖縄は、100万人規模の都市圏からそれほど遠くない場所に、まとまった農地を大量に確保できる、日本の中でも稀な地域です。この、シンプルかつパワフルな、次世代共同体による有機農業生産の仕組みが沖縄で広まることによって、日本全体の有機農業生産のあり方にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

ii 環境の再生: 有機農業の生産性が飛躍的に高まることで、地域における自然な農地面積が大幅に拡大します。日本の農薬使用料は世界一で、散布された農薬の約40%〜50%は大気中へ気化して地球温暖化の重大な原因になっていると指摘されており、農業そのものが重大な環境問題を引き起こしています。有機・無農薬による農業生産は、農薬・除草剤・化学肥料などを散布しないため、土壌や地下水を汚染しないことはもちろん、その畑で働く労働者の健康を守り、最も広い意味で環境を保全するものです。近年問題になっている沖縄近海の珊瑚白化現象も、海ではなく陸が原因ではないかと考える向きもあります。広大な土壌を自然な環境に戻すことで、沖縄の重要な資源である海に、劇的な改善が見られる可能性は高いと思います。

iii 観光の再生: 有機農業の地域的な盛り上がりは、沖縄の観光業の質を著しく高めます。食事のまずい観光地が繁栄することはあり得ません。沖縄の食事情のままでは、現在のB級リゾート地としての壁を破ることは不可能でしょう。沖縄がB級リゾート地であり続ける限り、高品質高単価のビジネスは成り立たず、ホテルの従業員はいつまでたっても手取り10万円前後の労働を強いられることになります。地域のリゾートやレストランに高品質の食材がふんだんに供給されることで、観光地としての質を高め、食文化が深まり、質の高い顧客層を引き寄せることになるでしょう。沖縄全土に有機生産が広がれば、例えばオーガニック・アイランドとして、沖縄全体のブランディング戦略を構築することも現実的です。

iv 食と健康と医療: 我々が日常的に口にする食材は添加物を複合的かつ大量に含んでいます。食品添加物など、体に摂取された「異物」を分解するためには、ビタミンやミネラルが必要ですが、一般的な小売店に並んでいる野菜には、これらの栄養素が不足しているため、現代人は慢性的なカロリー過多の栄養失調状態で生活していると言われています。自然な農産物は、農薬と化学肥料で育てた野菜に比べて、ミネラルやビタミンが5倍前後含まれ、消化の負担が少なく、免疫力を高めると言われています。我々の社会で一般的になってしまった劣悪な食事情を、本来あるべき自然な状態に近づけるだけで、健康状態が改善し、疾病率が低下し、ひいては医療費が大幅に低下することが、はっきりとした傾向として明らかになるでしょう。

v 共同体の再生: 共同体が成立するためには、①生産性を生み、②個人の生活を支え、③共同の目的のためにハタラク(傍が楽になるために働く)、という三つの基本要件が必要ではないかと思います。近年沖縄でも共同体の崩壊が問題視され、地域の自治会加入率の低下に歯止めをかけようと種々の対策が講じられていますが、形式をいくら整えても、三つの基本要件が備わっていなければ実効性はありません。大八産業の援農プロジェクトはその全ての要素を再生することで、人間関係を緊密にし、沖縄が古くから重要視してきたゆいまーる(助け合い)精神を、現代的な共同体で再構築する効果があります。共同体が再生することの社会的なインパクトは計り知れません。緊密な共同体と、健康・長寿の強い相関関係は、医学会でも「ロゼト効果」として知られていますし、何よりも生活の質、教育の質、家庭の質、人間関係の質が向上することで、個人と社会の幸福度に大きく寄与します。

vi 精神の健康: 自然な農業には本当に不思議な力があります。精神的な疾患を抱えていたり、対人関係に問題があったり、軽度の鬱に悩んでいる方々が援農に参加し、自然の中で思い切り汗を流し、共同で働きながら、生気を取り戻し、みるみる元気になって行く事例が少なからず見受けられます。また、一般に健康者と言われている人たちであっても、援農を通じて意識が前向きになり、小さなこだわりが消え、人への気遣いが増え、エゴが縮小して、自分に正直になって行く傾向が見られます。援農プロジェクトには、名だたる企業の経営者を始め、社会的に地位の高い方々も多く参加されていますが、自社の社員を援農に誘ったり、またその仕事ぶりを見たりしながら、企業経営、人事、研修に応用が利くと考える方も少なくないようです。恐らく、援農に参加する社員が増えるほどその企業の業績が上向くという事例も、生まれてくるでしょう。

vii 次世代金融: 援農プロジェクトは、資本主義社会の常識と正反対の、「次世代金融」事業でもあります。事業者は、有機農家に対して労働力をアレンジすることで、有機農家に対して実質的に、無担保、無保証、無金利、しかも、あるとき払いの返済による「貸し付け」を行っていることになりますが、そこにはお金が介在していません。また、金融の常識で、このようなファイナンスを行えば、貸し倒れが続出し、利益も得られず、元本も戻らないのですが、現実には、すべてが全く逆の結果を生んでいるのです。資本主義社会の金融は、実体経済が生み出す付加価値の「上前をはねる」ことによって収益を獲得してきました。これに対して、大八産業の次世代金融は、農業生産の現場に全く負荷をかけず、現金負担なしで労働力を提供し、生産性を飛躍的に向上させ、その収益からの配分を受け取るものです。

将来的には、労働力だけでなく、有機農家のハウス・耕作機械などへの投資資金、有機農家の借金の借り換えなどの資金(現金)を、が有機農家に対して提供する予定ですが、もちろん、無担保、無保証、無利息、返済は農産物によるあるとき払いです。実体経済を搾取する資本主義的金融から、実体経済に力を与える次世代金融へ、周回遅れでトップを走る沖縄から発信する、世界最先端の金融事業です。

viii 次世代地域通貨: 世界中に地域通貨は星の数ほど存在していますが、現実的に機能しているものは殆どありません。地域通貨が機能するための要件は、①誰にとっても価値のある実物資産を裏付けとしていること、②現実に生産性を生んだ労働の対価として地域通貨が発行されること、ではないかと思うのですが、殆どの地域通貨がこの要件を満たしていないことが原因かも知れません。例えば、地域通貨がドルと等価交換(裏付け)できるとしても、地域通貨自体に価値の裏付けがなければ、やがて大半がドルに換金されて流通量が減少してしまいますし、反対に、基軸通貨が崩壊すれば、地域通貨も同時に機能を失ってしまいます。また、地域通貨が労働と生産性と実物(例えば農産物)の裏付けとして発行されなければ、本来無価値の「紙切れ」を流通させることになり、それほど広がるものではありません。

援農プロジェクトで、援農者は日当相当額を大八産業が運営する有機無農薬野菜のネットショップのポイントで受け取ります。例えば週に1回援農すれば、毎日食べる有機野菜を購入する必要がなくなります。生活の損益分岐点が下がり、食べるために「しなければならない」仕事が減り、日常に余裕が生まれ、有機野菜の購入はお金持ちだけの特権ではなくなり、援農者の多くはネットショップの継続的な顧客になり、有機野菜がさらに社会に広がる原動力になります。

このポイントは、ネットショップで販売される全ての商品を購入することができる「現物」であり、将来デジタルキャッシュカードが発行されればポイントのままでも、あるいは単に、ポイントを裏付けとした「ポイント券」が発行されても、地域通貨として機能します。いつでも新鮮な有機野菜と交換可能であるため、インフレもデフレも生じないばかりか、仮にドル基軸通貨が崩壊し、それに連鎖して日本円が機能を停止したとしても、十分価値を維持し続けるでしょう。生産性を伴った労働を裏付けとしているために、通貨発行によって得られる利益(シニョリッジ)が存在せず、逆に、誰でも農作業で健康になりながら、たとえ生活保護者であっても、ホームレスであっても労働の対価として紙幣を「創造」することができ、社会格差の是正に大きく寄与します。

ネットショップのポイントは、本質的に物々交換であるために、金利が生じず、競争原理を生まず、社会格差を生まず、社会を豊かにする優れた価値交換機能です。同時に、ネットを利用することで、従来の物々交換の欠点が全て解消しています。すなわち、実物資産の価値が減価せず、常に新鮮で価値のある資産と自由に交換可能で、物々交換特有のニーズのマッチング欠如がありません。このポイントや「ポイント券」を、例えば那覇空港ビルディング、地域のスーパー、ガソリンスタンドなど、他の事業体が受け付けるようになれば、世界でもユニークな地域通貨として、基軸通貨崩壊時には極めて有効に機能するでしょう。近い将来、新・南西航空のマイレッジポイントと互換性が生まれれば、「援農すれば南西航空で海外を見に行ける」時代が到来し、海外旅行もお金持ちだけのものではなくなるかも知れません。さらに、「ダイハチマルシェ」を物々交換サイトへと展開することで、必要なものは全て物々交換で瞬時に入手可能な社会が実現します。

この地域通貨のプログラムに参加するためには、実質的に沖縄在住でなければなりませんが、沖縄に住むということ、自ら汗を流すこと、そして助け合う生き方をすることが、豊かな人間関係と人生を手に入れるためのパスポートになるでしょう。それによって、沖縄の価値、沖縄の人間関係の価値、沖縄の共同体の価値が大きく見直されることになります。

そして何よりもこの地域通貨プログラムが最も優れているところは、地域通貨の流通量が拡大するほど、有機農産物が増加し、環境が保全され、観光地の質が高まり、食が安全に豊かになり、共同体が再生し、精神の健康が促進され、人が健康で長寿になり、社会に生産性を促す次世代金融が広まる、ことです。すなわち、この地域通貨は、幸福で豊かな社会そのものを裏付けに発行されるのです。


5. ビジョン

援農プロジェクトでは、有機農産物の生産額を、3年で10倍にする目線(いわゆる目標ではありません。無理をせず実現する規模のイメージです)を維持しています。これは、今後急速に拡大する有機農産物の想定需要と、我々が現実的に対応可能な供給量をやや保守的にバランスした水準ですが、現実の需要量、供給量は、これよりも更に多くなるのではないかと思います。一見アグレッシブな水準のようですが、既に大八産業の現場では品不足の産品が続出しており、市場における需要増加はこの水準を遥かに上回ると考えていますし、供給側は、援農プロジェクトが機能するという前提で、生産現場の人手問題が解消することの、生産へのインパクトはこれほど大きいものなのです。

3年で10倍の供給量の実現は2倍+、4倍+、8倍+と、1年ごとに倍の生産を実現することでおおよそ可能です。大八産業が事務局を務める沖縄最大の有機生産グループ「しまぬくんち」の農地総面積約5万坪のうち、耕作面積は約2万坪。始めは、「しまぬくんち」の中でも、特に採算の苦しい農家を優先し、今年は年末までに大宜味村伊芸農園の2万坪弱を耕すことで、「しまぬくんち」の耕作面積を4万坪(約2倍)にすることの目処は、おおよそ3ヶ月前倒しで立っています。現在、毎週の援農者は10人に達し、既に伊芸農園だけではなく、糸満の中村農園(約3,000坪)へと対象を広げていますので、現実にはこの水準を上回る可能性が少なくありません。2年目の2013年度(2012年4月〜2013年3月)には約5万坪+、3年目の2014年度は約10万坪+耕作面積を増やすイメージに従って、対象農地の確保を同時進行しています。

以上の目線が現実になれば、大八産業の沖縄県産野菜の出荷額(現在約1億円)は、3年後に約10億円へ拡大します。沖縄県産の野菜、果実、穀類の生産額約200億円に対する有機野菜のシェアは、約1%から5%まで増加することになります。この水準の生産額は、観光客および沖縄で質の高い生活をする属性の高い顧客を取り敢えずカバーする規模となり、沖縄全体の地域再生に寄与することが現実的になります。

このときまでに各有機農家の売上は3倍、労働時間1/2に近くなると思われ、自然な農業は、楽しく、美しく、健康で、ゆったりした休暇が取れる、社会で最も豊かな産業のひとつへと変貌することでしょう。余裕ある時間や収入を使って、例えば農家はもっともっと世界を見るべきではないでしょうか。質の高い消費者が何を、どのような水準で求めているかを体験することは、高品質な農産物の生産現場にきっと大きく役に立つ筈です。豊かな共同体に支えられ、家族と友人とで過ごす時間が増え、世界中で特別な経験を共有する、「世界で最も豊かな沖縄の有機農家」を実現することで、社会全体の再生に大きく寄与することになるでしょう。

おおよそ3年後に20万坪の耕作地が稼働するということは、概算で、毎週100〜200名が援農に参加し、(1人あたりの日当を例えば5,000円として)年間2,600万円〜5,200万円の「地域通貨」が流通することになります。流通量の確保が最大の課題となっているその他の地域通貨と決定的に異なる点は、継続的に農業生産が行われ、かつ、少なくとも暫くの間は耕作面積が相当な比率で成長し続けるため、「地域通貨」の流通量が累積的に増加し続ける基本構造を持っている点です。このため、殆どの地域通貨の運営者が苦労している、流通量を増やすための営業やプロモーション活動、そしてその費用負担が全く不要であり、非常に効率の高い運用が可能です。仮に、自然な有機農業生産が全体の20%程度のシェア(40億円)を確保した世界を想像すると、常時数億円の流通量となる筈で、その現実味と社会へのインパクトがイメージできると思います。まして、そのようなタイミングで基軸通貨が崩壊し、主要通貨が機能を停止し、ブロック経済ごとに自給自足を強いられる世界が生じることを想定すれば、その重要度は計り知れないものがあるのです。

かつての自然な農業は、1人の働き手が10人の人口を支えていました。日本の高度成長政策に呼応して、農薬、化学肥料、除草剤などが大量に利用されるようになって「生産性」が著しく向上し、農業は1人が100人を支える「食料製造」産業に変質しました。仮に、共同体の崩壊、労働の崩壊、教育の崩壊、食の崩壊、健康の崩壊、医療の崩壊、福祉の崩壊、エネルギー危機、金銭経済の崩壊などなど、人間の生理的な限界を超えようとしている社会を再生するための、最も有効な答えのひとつが自然な農業であるならば、農業に人手が最大10倍必要となる時代が到来する可能性があるのです。援農のメカニズムを利用すれば、10人が1週間に1度援農することで有機農業の生産量が10倍になります。すなわち、単純計算では、全ての人口が1週間に1度援農に参加するだけで、全人口が有機農産物だけで暮らすことができるのです。自然な農業に人手を戻すことは、社会が存続するための必然です。残された問題はその方法だけでしょう。最も優れたモデルを実現したものが、次世代社会をリードすることになるでしょう。


6. ハタラクということ

最後に、そして最も重要な問いは、そもそも援農者がなぜハタラクのかということでしょう。援農プロジェクトは、埼玉県に住む一人のサラリーマンから始まりました。

豊田くんは上場企業の品質管理部門で働く平社員。純粋な心を持ちながら、社会や組織に対して器用に立ち回ることができず、会社では決して厚遇されていませんでした。人付き合いも得意な方ではなく、一人で居ることが多い週末のために、農地を借りて自然農を始めました。あるときネットで自然農と金融を一つのものとして唱える、変わり者の事業家を見つけて興味を引かれた豊田くんは、その事業家が遠く沖縄で主催する「金融講座」を受講することにしたのです。講座の会場では、銀行員、会計士、投資家、企業経営者、コールセンターのマネージャーらの面々に混じって、ひとりだけ有機農家が受講していました。沖縄の有機農業のホープ、中村農園の中村くんです。

中村くんは大農家の家系の異端児で、親戚はおろか、地元農村地域の中でたった一人の有機生産者です。伝統的な農業地域では、有機農業に対する偏見がいまだに強く、中村くんは孤独な戦いを強いられていました。理想の農業への熱い気持ちと、有機農業では生活が成り立たない現実、周囲からの無理解、・・・農業をやめてしまおうかとまで思い詰め、相談相手がいなかった中村くんの話を、偏見や批判なく真っすぐに聞き、彼の生き方を肯定してくれたのが、豊田くんでした。中村くんの飾らない心の話を聞くうちに、自然と「中村くんの農作業を手伝ってあげたい」という言葉が豊田くんの口をついて出たのでした。以後、前日の夜に沖縄に入り、中村くんの農園に泊めてもらい、翌日農作業をしてから一緒に「金融講座」に参加する、というパターンが定着したのです。

殆ど見ず知らずの自分を自宅に泊めてくれるという、中村くんの申し出に驚き、感激しながら、本土では対人関係にぎくしゃくしていた豊田くんも、朴訥とした心の優しい中村くんと自然な農園で働くと不安が薄らいで行くのを感じました。そんな奇妙なパターンが始まってから約半年が経過し、無償でハタラクことの不思議な爽快感を、少しずつ人に語るようになった豊田くんの言葉に、はっとした人物がいます。同じく「金融講座」を受講していた大城くんです。

大城くんはコールセンターの要職に付きながら、この業界がいかに従業員の犠牲の上に成り立っているか、同時に、自分はいかに中途半端な地位の、中途半端な生き方に甘んじているのか、深く悩んでいたところでした。自分を変えるきっかけを探していた大城くんの耳に、豊田くんの「援農」という言葉が飛び込んできました。理屈ではうまく説明できないのですが、援農が自分を変える重大なきっかけになると直感した大城くんは、翌日中村くんにいきなり電話をかけて、農作業を手伝いたいと申し出たのです。

おおよそ時を同じくして樋口は、有機生産グループ「しまぬくんち」の生産者を一人一人訪問し、農業の悩み、事業採算の問題、人間関係や将来のビジョンなどについて、数時間かけてじっくり耳を傾ける取り組みを行っていました。農地面積6ha(2万坪)、沖縄最大の有機農場伊芸農園を経営する伊芸さん夫婦のところに足を運んだときです。広大な農園を経営するためにもともと多額の借金があり、毎回の利払いが経営を大きく圧迫していましたが、最近は経営のバランスを崩して資金繰りが特に苦しくなり、農作業の手助けを人にお願いするだけの現金が準備できません。人手がなければ、2万坪の有機農場はあっという間に雑草に覆われ、無残な状況で放置されざるを得ません。打つ手のない伊芸さんは無力感に押しつぶされ、現実から逃げ、毎日畑に出ることが怖くなっていたのです。そのうえ、最後の望みだった700坪のインゲン畑が5月の台風2号で全滅し、心が折れて座り込んでしまいました。もう経営が全く立ち行かないので、土地を全て売り払って農業を廃業し、あとは年金で細々と暮らして行こうかと、真剣に考えていたところだったのです。

経営の現状を包み隠さず話してくれた伊芸さんと、再生への処方を話し合いました。「現実に向き合い、今できることを、合理的に、冷静に考えれば、どんな問題であっても必ず打開策が見つかります。結局、①単年度が赤字ではない、②次の年は今年よりも確実に良くなる状態を作る、という2点が確保できれば、どんなに多額な借金でも必ず返すことができるのです。後は決断と、何があってもやり遂げる情熱がさえあればいいのです。問題は状況の悪さではなく、再生のビジョンを見失っていることです。皆で知恵を出し合って、今、この場で、解決方法を特定し、それのすべてを一緒に実行しましょう。」

「単年度黒字を確保するための目先の運転資金は400坪のオクラ畑に集中して、それ以外のことは意識から一切捨てて下さい。借金の返済、最低限の運転資金、生活費を確保するために、7・8・9月は毎日400パックを出荷して月額最低60万円の現金収入を確保することが生命線であり、どんなに辛くても安定的に400パックを出荷する覚悟がなければ、破綻は免れないという現状を理解して下さい。どんなに有機農業の夢を語っても、今日400パックのオクラを出荷する以上に重要なことはありません。現実(オクラ)から逃げずに、雨が降っても、台風が来ても、なんとしても出荷は続け、言い訳をしないで下さい。」

「1,000坪のパイナップル畑は作付けした後で人手が足りずに放置され、雑草が腰まで生い茂ってこのままでは全滅です。来週早々に私たちが草刈りを手伝いますので、これを来年に繋げましょう。」

早速次の週、伊芸農園で汗を流した樋口らは、想定外の爽快感にすっかり魅せられてしまいました。農家にとっては大変な「重労働」なのですが、たまの作業であれば、炎天下腰まで生い茂った雑草の草刈りが意外に楽しく、農薬が一切使われていない自然の畑でハタラクことが、これほど気持ち良いものだとは思いませんでした。仕事そのものの楽しみに加えて、草刈り鎌で皮をむいて食べる無農薬のパインの信じられない甘さ、休憩の合間に飲む有機・無農薬の冷たいお茶、朝取りの有機・無農薬野菜たっぷりのお昼ご飯、大汗をかいた後で大宜味の大自然を眺めながら、冷えたグラスで飲み干すビール、風通しの良い大部屋で食後の昼寝・・・。困っている伊芸さんをなんとか助けようという気持ちで始めた援農ですが、とてつもなく大きな可能性に目を開かされた瞬間でした。それからは毎週畑で働くことが皆の楽しみになり、伊芸農園の2万坪全てを年内に耕す援農プロジェクトが始動したのです。

有機農場での作業がこれほど楽しいものであれば、他にも多くの人が力を貸したいと思う筈です。先の大城くんが一人で中村農園に援農に行ったのが、正にこのタイミングだったのです。伊芸農園での援農の話を聞いた大城くんは、伊芸農園の援農にも大喜びで申し出てくれたのです。それどころか、コールセンターの同僚を連れて参加するなど、パイン畑の援農隊はあっという間に10名弱の「小隊」に増殖しました。さらに驚いたことに、中村農園の中村くんも援農隊に加わったのです。採算ぎりぎりの有機農業をしていて、彼こそが誰よりも手助けを必要としている筈なのに、「自分の農場には豊田くんや、大城くんが手伝いに来てくれたから」、といって、その気持ちに報いるためにも、誰かの手伝いができないか、と考えてのことでした。もちろん、中村くんの気持ちを汲んだ伊芸さんが、次回の中村農園での援農で、相当な重労働のリーダーシップをとって大活躍してくれたのでした。「人のために、社会のために、自分には何ができるだろう?」という気持ちの連鎖は、どんどん大きくなっていきます。誰を誘っている訳でもないのに、毎週のように増えて行く新メンバーの中には、投資家、企業経営者、政治家秘書など、それぞれの業界で大活躍され、それぞれの組織や業界では大きな影響力を持つ方もいらっしゃいます。一様に、援農でハタラクことの素晴らしさ、自然が人を癒す力の凄さ、農業の底知れない力、都市部では絶対に味わえないビールの味、皆で力を合わせる楽しさ、階級の一切ない正直な人間関係・・・に大いに心を動かされ、何度も繰り返し、援農に参加するようになっています。

ひとりひとりが楽しみながら全力で汗を流す援農プロジェクトは、農作業以上の重大な意味があります。参加者がひとり増えればひとり分だけ、有機農産物が増加し、環境が保全され、観光地の質が高まり、食が安全に豊かになり、共同体が再生し、精神の健康が促進され、人が健康で長寿になり、社会に生産性を促す次世代金融が広まる、ということなのです。すなわち、援農プロジェクトは、幸福で豊かな社会そのものを裏付けに成り立っているのです。そのすべては人のため、そして、すべては自分のため。「はたらくという言葉は、はた(傍)がらく(楽)になるということ」だと言われます。人が楽しく幸せになるために、自分ができることを、喜んでさせて貰うのがハタラクということでしょう。誰一人としてお金のためにハタラク人はいないのですが、結果として、物質的にも精神的にもお互いがどんどん豊かになっていく。そんなプロジェクトが誕生しました。

援農プロジェクトに参加する人たちの動機が、通常の労働と異なるということは、今後、有機農家として成功するための重要なクオリティが大幅に変化することを示唆しています。今までは、農業を知り、土を知り、生産に向き合って成果を上げることが農家の「実力」でした。今後は農業技術も然ることながら、それ以上に人に誠実な関心を払い、自分が人のために何ができるか、という意識で生きなければ、十分な生産量を確保することができない時代になるでしょう。社会においても、農業経営においても、愛と人間力が何よりも重要な資産になるのです。

気持ちで繋がる援農プロジェクトは、労働の対価を報酬で支払う「雇用者と労働者」の関係ではなく、「主人と客人」の関係に近いものです。大事な客人を迎えるときに、相手にお金を支払うだけで済ませる人はいません。質の高い食材で、心のこもった食事を提供し、滞在を楽しんでもらえるために心を配り、訪れてくれた気持ちに応えるためにお土産を用意します。一方客人は、主人の心のこもった配慮に感謝の意を表すために、なにか自分が役に立つことを探し、それが適わなければ、恩義に感じていつかそのお返しをしようと心に定めます。このような、心で繋がる人間関係を生み出すことができなければ、人の心は次第に離れ、一時は農家がどれだけの野菜を収穫したとしても長く繁栄することはないでしょう。

質の高いおもてなしをするために、何よりも重要なことは、自分自身が質の高い生活をし、豊かな生活とは何か、質の高い食材とは何か、本当に美味しい食事とは何かを深く理解し、自分自身に嘘をつかず、人の心に報いる人生とはなにか、を実践する必要があるのです。

【2011.8.8 樋口耕太郎】