お正月はいかがお過ごしでしたか?
私はごくごくオーソドックスに、大晦日は年越しそばをいただき、
紅白歌合戦を観て今やもうついていけない流行歌のお勉強をこなし、
おせち料理をゆっくり作り、お雑煮・お屠蘇でいただき、初詣に行きお参りを
済ませ、カゼを克服した後、ランニングもしっかりこなし、ぐっすり眠って初夢も
見たお正月でした。ただ、年末より苦しんでいた腱鞘炎がもう痛いのなんのって!
あなたもどうぞお身体はくれぐれも御大切になさってくださいね。

さて、今日は七草。
歴史は平安時代にさかのぼります。朝廷では一月七日に若葉を摘み、冬の寒さを
打ち払おうとする習わしがありました。一方、海を隔てた中国でも、この日に
7種類の菜の煮物を食べれば、万病にかからないという言い伝えがありました。
七草がゆは、この日本と中国の風習が合体し、一月七日に、一年の無病息災を願い
七草を入れたおかゆをいただいて、冬に不足しがちな野菜を補い、お正月の
暴飲暴食で疲れた胃袋をいたわるという古人の知恵が、現代に行き続けている
行事です。お休みモードからふだんの生活に切り替えるきっかけとしてはとっても
おすすめです!
ぜひ召し上がってみてくださいね。

昨年もいろいろな出会いがありました。
その中のお一人で、K君という神戸出身の30代の男性。彼は韓国人で、神戸でも
東京でも活躍してきた人で、有名人など、とにかくお友達のたくさんいる、
バイタリティに溢れる、いつも楽しく元気いっぱいの人情熱き人なんです。
何度かお話を重ねるうち、そんな彼でも、お父さんを不慮の事故で亡くした
子供時代から、差別を受けたり、自分でもコンプレックスを持っていたりしていた
ということでした。でも今はもう彼はそれを撥ね返すかのごとく、
先にも書いたような明るい人生を送っておられます。

その出会いによって、私は一人の女の子を思い出しました。
私が生まれ育った大阪にも韓国の人達がたくさんいて、小学校のどのクラスの
中にも数人は混ざっていました。子供達同士の中にも差別というものは存在し、
彼らはよくいじめられたりしていました。私の末金という名字にも「金」という
漢字が入っているため、「おまえも朝鮮やろ!」などと言われ、
戸籍謄本を提出までさせられたり、高校生の時にはボーイフレンドの親に興信所で
調べられたりまでしたものです。

そんな小学校6年生の時のことです。
私のお誕生日会の日に、私の家に仲良しグループのお友達がたくさん集まって
くれました。そこに「金本さん」というお友達がプレゼントを持って
来てくれたんです。
「のりちゃん、金本さんも呼んでたん?」と、
みんなから問い詰められ、金本さんの手前、呼んでもいないのに来てくれたとも
なんだか言えずに答えに詰まっていると、
「うそ~っ、のりちゃんも朝鮮やったん?!」と。
私が「そうやないけど、金本さんもお友達やんか。なんで入ってもらったら
あかんのん?」と言うと、みんな白い目で私を見ながらぞろぞろ帰って
しまいました。
私は金本さんと二人きりで残され、正直言って
「金本さんが来たせいで、あんなに楽しみにしていたお誕生日会がメチャクチャに
なってしもた。」
と恨めしく思っていました。
その時、金本さんが私にこう言ったんです。
「のりちゃん、こんなことになってしもてごめんな。私はいつもやさしくしてくれる
のりちゃんのお誕生日やからプレゼントを渡したくて来ただけやねんけど…。
のりちゃん、怒ってるやろ? 韓国人やない私までなんで差別されなあかんの!
って、今、腹たってるやろ?」
私が黙っていると、金本さんは続けてこう言いました。
「のりちゃん、こう想像してみてくれへん? お願いやから試してみて!
いくで。
まず最初に、
自分の名前を消してみて。
自分の過去が全部なかったと思てみて。
住んでいる家もないと思てみて。
自分はこんな人間やと思てる感じも消してみて。
ほんで
そこに残って立ってんのは誰?」

私はその時、何か本当に大事なものを教えてもらったような気がして、それ以来
いつもこんなイメージを心に抱いているような気がします。

生きていく中で、付属的なものをいっぱい集め、ずっと足し算ばかり続けていれば、
わたしたちは自分が何者なのか、分らなくなってしまいかねません。
名前も過去もいったん切り離して、真剣に己を見つめ直せば、本質が見えてくる
のではないでしょうか。

昨年、暮れに「忘年会」をたくさん開いていただきましたが、
忘年会というのも、ある種の「過去を削る作業」を広く行うということでも
あるような気がして、一年の終わりにその年の自己を見つめ直すいい機会で
あるのかも知れませんね。飲めや騒げで終わってしまっては何にもならないので
しょうが…。

暦や四季を大切にして生きてきた日本人の生命は一年更新です。
どれ程辛い一年であっても、大晦日で区切るのです。綺麗さっぱり前の年のことは
清算して一眠りし、元旦には枕元にまっさらで綺麗な、新しい一年分の生命が
訪れます。

さあ、新しい年です!
新しい365日。
気持ちまでまっさらに引き締まって、いいものですね。
過去を削ったまだまっしろのこの白いキャンバスに、あなたはどんな絵を
描きますか?

今年のこの「季節の便り」も今までよりも、不必要な部分をそぎ落とし
「削る作業」をしてゆきたいと思っておりますので、どうぞまた今年も
おつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

残るのは誰か?

まず最初に
自分の名前を消し去る。
生きてきた年月も振り落とす。
住んでいる家を解体し更地にした上で
自分自身のイメージも引っこ抜く。
そうして
そこに残って立っているのは誰か?
そこからもう一度
自分の名前を書いて
生きてきた年月を拾い集め
家を建て直し自分の進む道を
ふたたび歩み出す。
いずれまた
白紙に戻すときがくる。
何度も
何度も繰り返す。

【2008.1.7 末金典子】