内閣府と沖縄県が主催する 『第3回 金融人財育成講座』 が、10月から来年3月の期間、琉球大学にて開催中です。今年度シリーズは、全12講座中、残る5講座が受講可能です。本講座の特徴は、12講座全部を通して受講しなければならない訳ではなく、1回2,500円で好きな講座のみを、誰でも受講できるところにあります。私(樋口)が担当する講座は、1月24日土曜日午後2時です(下記参照下さい)。

私事、昨年の「サンマリーナホテルの再生」と題した講義は非常に好評で、定員200名の琉球大学大学会館もほぼ満席状態でした。嬉しかったのは、広範囲の異業種の方々に受講頂いたことです。金融に携わっていらっしゃる方々はもちろんですが、経営者、ベンチャー起業家、大学教員、農業、農協役職員、主婦の方々、自営業、タクシー乗務員、医師、看護士、ホテル業、ヒーリングサロン経営、土木開発業、建築家、電力会社、県庁職員、飲食業、学習塾、大学生、中学校教員など、本当に多岐に亘りました。今年度も、講義内容を1年間かけて練り込み、昨年よりも一段とグレードアップします。

レストランやホテルの予約にしろ、大学での特別講座にしろ、沖縄では通常間際にならなければ予約が入らないのですが、嬉しいことに、現時点での受講申し込み数が、当初予定していた施設の定員数を超過したため、講演会場が琉球大学法文学部の大教室へ変更になりました。主催者発行のオリジナルパンフレットなどと情報が異なりますので、ご参加頂ける方はご注意頂ければと思います。

日時: 2009年1月24日(土曜日) 午後2時~5時15分
場所: 琉球大学 法文学部 201教室
講演: 「沖縄における事業再生」 樋口耕太郎
受講料: 一般2,500円、学生500円

プログラムの詳細と受講お申し込みは、リーフレットまたは主催者ウェブサイトをご参照下さい。

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本講座のシリーズは、もともと私が講座を担当するのが場違いなほど、著名な方々が講師をされていらっしゃいます。昨年度も、日銀総裁に就任された白川方明先生、東京大学の小宮山宏総長など、そうそうたる講師陣でした。今年度後半の講座で、私が特にお勧めの講師をご紹介します。

1月17日(土)講義:
㈱経営共創基盤 冨山和彦(とやまかずひこ)代表取締役CEO

冨山さんは、云わずと知れた、日本における事業再生実務家の第一人者です。長年経営コンサルティングに携わり、自らもコンサルティング・ファーム(コーポレート・ディレクションズ)を経営されていらっしゃいましたが、2003年4月に国家プロジェクトとして成立した、株式会社産業再生機構の代表として目覚しい実績を上げ、特に注目されるようになりました。産業再生機構の支援先で有名な企業は、カネボウ、ダイエー、大京、ミサワホームなどですが、いずれも当時の社会全体にとっての超重要再生案件です。

産業再生機構の実績のすばらしさは、第一に、全ての対象事業者への支援をすばやく完了し、当初5年限定とされていた組織を、1年早く解散したことであり、第二に、存続期間中におよそ312億円、解散後の残余財産の分配により約432億円を国庫に納付し、国民負担が発生しなかったこと、第三に、職員のうち公務員の占める割合は1割程で、他は民間出身者が占めていたことでしょう。冨山さんは、産業再生機構での役目を終えた後、その仲間たちを中心に、事業再生・経営支援を主業とする株式会社経営共創基盤を設立し、代表に就任。昨年は日本の名だたる多数企業から合計100億円を超える出資を受け、事業基盤を拡大しています。

冨山さんの著書で、『会社は頭から腐る』というタイトルの本があります。金融人財育成講座における冨山さんの講義は昨年に引き続き2度目ですが、著書のタイトルの通り、企業の問題の大半は経営者に起因するという事業経営の本質を、きわめて率直かつ経営科学的に解説する講義スタイルで、あっという間に時間が過ぎ去る感じです。金融関係者に関わらず、組織運営に関心のある方、企業経営者の方々には(耳が痛いながらも)特にお勧めします。

3月7日(土)講義:
GCAサヴィアングループ㈱取締役、一橋大学大学院教授 佐山展生(さやまのぶお)先生

本年度講座シリーズのトリを務められる佐山さんは、全国ネットのマスメディア、著名雑誌などにも頻繁に登場されていますので、金融業界を超えてご存知の方も多いと思います。佐山さんは現在、日本におけるM&A(企業合併・買収)実務家の第一人者として知られていますが、そのキャリアは実に大胆かつアグレッシブです。どんなに成功しても過去と現状に拘泥せず、常人が夢見るような地位をいとも簡単に、しかも何度も捨て去ることで、次の目標にチャレンジする「捨てっぷりのよさ」が特徴で、結果として、普通の方が一生のキャリアとするような大事業を5年ごとに成し遂げていらっしゃるイメージです。佐山さんはよく、「人生はおもしろい。しかし、おもしろくするのは自分次第」とおっしゃいます。

日本にM&Aという用語が存在しなかった1987年、そしてまだ転職が珍しかった頃、10年以上務めた帝人での高分子化学技術職を辞し、全く畑違いの三井銀行で日本で最初のM&A業務に参画されました。ニューヨーク勤務時代には米州のM&A事業を統括する傍ら、激務の合間を縫ってニューヨーク大学の夜学でMBAを取得したのが40歳。帰国後、東京工業大学で博士課程を、これも夜学で終了されたのが45歳と、常に学び続けるパワーは人並み外れています。特に、佐山さんがニューヨークから帰国した頃の日本は、大手銀行を中心に不良債権処理が本格化し始めた時期で、大量の不良債権処理に追われる銀行本体の内情を尻目に、彼のM&A部門は破綻企業の清算・売買のアドバイザリーなどを中心に実績を上げ、当時の邦銀としては異色の部門として有名でした。特にクラウンリーシング、大倉商事の破綻案件でアドバイザーを務めた案件は圧巻で、このような超多忙な環境で、どうやって博士課程を修了することができたのかは、謎としかいいようがありません。

日本で初めて、いずれの金融グループにも属さない独立系バイアウトファンド(ユニゾン・キャピタル)を創業されたのが、同じく45歳。今でこそ当たり前のバイアウトファンドですが、当時日本では実現不可能だと考える人が殆どでした。アスキー、東ハトなどの有名再生案件を手がけましたが、代表パートナーの地位をあっさり手放し、M&Aの独立系アドバイザリー会社GCAを立ち上げ、設立からわずか2年半であっという間に上場させてしまいます。村上ファンドから阪神電鉄・阪急を防衛した案件は有名です。これらの業務の傍ら、報道ステーションなどのコメンテーター、フォーブスのインタビューアーほかマスメディアにも多く登場したり、一橋大学大学院などで教鞭を取るなど、相変わらず超人的な日々を送られています。最近、GCAとサヴィアングループの統合を果たした後、代表の肩書きを早くも譲られており、また次の大事業を企図していらっしゃるに違いありません。

【2008.12.19 樋口耕太郎】