お元気ですか?
今年はゴールデンウィークに早々に梅雨に入ってしまい、
じとじととした休日となりましたが、かえっておうちでのんびりできたのでは
ないでしょうか。

さて、日曜日は母の日でしたね。

あなたもそうだと思うのですが、お母さんから学んだことや受け継いだことが
多々あることと思います。
昨年のお便りでは母から学んだ「謝ること」「働くこと」などを書かせて
いただいたのですが、今年は「出し惜しみしないこと」について書こうと思います。

私の母は子供である私が言うのもなんなのですが、いつもすること言うことが
仏さま・観音さまのような人なんです。
例えば、私が子供の頃、母と一緒に一緒にゆうげのお買い物に行く途中、
お乞食さんに出会うということがありました。
すると母は自分のお財布の中の今日使えるお金を
惜しげもなく全部あげてしまうのです。
それも迷うことなく間髪をいれずにさっとあげてしまうのです。
私達の夕食のお買い物にあてるお金を全て、です。
私が「なんでぇ? 今日のお夕食はどうすんの~?」と聞くと、
母は決まって「お家にあるもんですませよね。」と言うのです。
「コロッケ作ってくれるって言うたのに~。」と恨めしく言う私に、
「こういうことを“お布施”って言うねんよ。
考えてごらん。もしもあのお乞食さんが神さまやったらどうすんのん?
それに、お布施はしてあげるんやないよ。させていただくんやで。
させていただくことによって私達の心の中に清々しい気持ちが湧いてきて
その気持ちを逆に恵んでいただいてるんやよ。
そういう世界に私達を導いてくれはるために神さまがお乞食さんの姿に
なってはるのかもしれへんやろ?
あげてるんやなくて、もらっていただいてるんやよ。」 と。

その後、母から繰り返し教わったことは、
「もらおうもらいたいと思うあなたは“無い人”。
でも、求めず与えていくときのあなたは“豊かな人”。」だよと。

そんなことを思い出していた時、どこかで目にする機会があって読んだ
新幹線の座席に置いてある無料雑誌「トランヴェール」の巻頭エッセイ・
脚本家の内館牧子さんの一文を連想しましたので引用させていただきます。

脚本家の橋田壽賀子先生が「おしん」を書かれている最中、
私は先生の熱海の仕事場に通っていた。膨大な資料を整理する程度の
手伝いだが、卵以下の私にとって、一流脚本家のそばにいられるのは、
何ものにも替えがたい幸せだった。
それから約十年後、私はNHK朝の連続テレビ小説「ひらり」を書くことに
なった。先生は大喜びされ、一席設けてくださった。私は暮色の熱海が
一望できる一室で、たったひとつだけアドバイスを頂いた。
「出し惜しみしちゃダメよ」
これは強烈だった。さらにおっしゃった。
「半年間も続くドラマだから、ついついこの話は後に取っておこうとか、
この展開はもう少ししてから使おうとか考えがちなの。でも、後のことは
考えないで、どんどん投入するの。出し惜しみしない姿勢で向かえば、
後で窮してもまた開けるものよ。」
実はそのとき、私はすでに半年分の大まかなストーリーをつくり終えていた。
出し惜しみと水増しのストーリーだった。熱海から帰った後、私はそれを
全部捨てた。向き合う姿勢が間違っていたと思った。
「出し惜しみしない」という姿勢は、人間の生き方全てに通ずる気がする。

また、私が社会人になりたての頃、スーパーウーマンのように仕事ができる
女性の先輩と一緒に長く仕事をしていたときに彼女の生きる姿勢から
学び取ったこともそうなんです。

彼女は当時の私から見て、何をやらせても何を語らせても広すぎて深すぎる
そんな人でした。彼女の前だと自分が卑小な存在に思えてきたものです。
登るべき山の高さに腰が抜けてしまうという感じ。いや、山と言うより、
もう山脈、といった感じ。あらゆる分野についての彼女の引き出しの多さに
驚愕するどころか、その引き出しすべてにわたってかなり極めているのだから
もう脱帽ものでした。

その彼女の根っこにある姿勢も「出し惜しみしない」だったのです。

例えばなにかを面白いと思ったら文字通り寝食を忘れて没頭する。
普通の人なら「そろそろ寝ないと明日にひびく」とか思って切り上げようと
するところを彼女は切り上げない。ヘタすると何日でも寝ずに没頭する。
そうやっているうちに引き出しが驚異的に増えていき、結果的に様々な分野を
極めているわけです。

こうして私自身の座右の銘は「出し惜しみしない」になっていきました。

私の母も、内館牧子さんが書いた橋田壽賀子さんの言葉も、先輩も同じです。
これは宗教の話や、脚本術の話や、キャリアウーマン成功術の話ではありません。
生き方を語っているのだと思います。

あなたはどうでしょう。「まぁこのへんでいいや」「あまりがんばる姿を
見せるのも格好悪いし」「身体に悪いからいい加減にしておこう」…。
こんな風に少しずつ自分を出し惜しんでないでしょうか?

でも、出し惜しみはあなたの明日を何も変えません。今日と違う明日を
生み出しはしません。あなたなりの、想像できる明日しかやって来ません。

出し惜しみせず生きてみましょうよ。長続きしないかもしれません。
でも挫折してもまたすぐ始めましょう。
思ってもみない明日が、きっと、やってくるはずだから。

よ~し、まず今日は、明日のことなど考えずに飲み明かすぞ~!
ナーンテ、ダメかしら?

【2011.5.11 末金典子】