那覇地区のホテル開発ラッシュ(pdf)

ここ5年くらいの沖縄地区のホテル業界で注目される動きは、①那覇市内のビジネスホテルの大量供給、②外資系資本による大量買収、③高級リゾート(を狙った)開発、でしょうか。これらにはそれぞれ理由があると考えられますが、よく問い合わせを受ける那覇市のビジネスホテルについて分析しました。

市場概要: 大量供給が需要増とバランス
沖縄本島のホテル開発は2000年から2004年にかけて約20軒(約3,000室)の供給が生まれていますが、この約7割が那覇市内のビジネスホテルだそうです。全国的に見ても異常事態と言えるくらいの大変な開発ラッシュですが、2005年以降もそのトレンドは継続しています。

通常これだけ大量供給がなされると収益性の低下が懸念されますが、今のところ沖縄ブームを追い風とした強固な需要増加によってかなりの底固さを示しています。那覇市内の平均客室稼働率は、2001年の9.11以降上昇傾向にて推移しており、2003年に過去最高の80%程度を達成した後、2003年から2004年にかけて4%程度低下していますが、ADR(客室単価)の上昇によりイールド*(1) はむしろ微増し、市場全体で見た場合の収益性は確保されているようです。

供給サイドの事情
僕の個人的な市場観では、今後も3~5年くらいの間、那覇市内の宿泊特化型のビジネスホテルの供給は依然として増加し続けると思っています。沖縄への観光客がこれほどの増加傾向にあり、需要が伸びていれば当然のようですが、僕はむしろ供給サイドにその主な理由があると思っています。

沖縄都市部は未だに不動産市場の縮小(不況)が継続しており、底打ちまでには早くとも1・2年くらいかかるのではないかという気がします。東京やその他の地域でも起こったことですが、不動産物件は不況時には好況時とはまた違った意味の売買が増加する傾向があります。不動産不況時には、所有者の、破綻、資金繰りニーズ、事業縮小、テナントの退去による不動産事業収益の減少等の理由によって物件が売りに出され、好況期の時以上に町並みがどんどん変わっていく原因となります。不動産不況期の売買は、一般に、売買後の再開発が前提になっているという特色があります。長い間売買されていない不動産や破綻にともなう不動産はそのまま継続的に利用するよりも、再開発を行った方が資産価値が高まるからです。このとき市場は下降傾向にありますので、売買の買い手が作成する収支計画等は硬めに設定され、それから逆算された控えめな売買価格になる傾向があるのですが、逆にそれが売買市場と賃貸(ホテルの場合は室料)市場価格の下落を招き、マーケットが落ち着くまでの間、スパイラル的に下落を続けます。これに加えて、売買=再開発を意味するため、不況期にかかわらず(というより、上記の理由によって、不況期であるがゆえに)不動産供給が著しく増加します。そして、このように売買→再開発がなされるときはその市場において最も価値の高い不動産が多量に開発されます。

東京では高級マンション、那覇ではビジネスホテル
不況期の東京であれば坪350万円くらいの新築高級マンションがそれに該当し、過去10年間は東京の都心部にこのようなマンションが乱立し、東京都心部で人口が急増した大きな原因となっています。これに対して、人口30万人に対して観光客年間500万人の窓口になっている那覇市の大きな特徴は、上記前提における最高利用不動産はマンションではなくビジネスホテルであり、一昨年くらいから那覇のビジネスホテルがとてつもなく増えている理由はこのように説明できると考えています。

不況時の東京の不動産市場を見て、何でこれほど深い不況なのにさんざん不動産開発がなされるのか始めは不思議でした。不動産金融理論の「常識」では、不動産の売買価格が再調達価格(総開発コスト)を上回る、すなわち好景気のときに新規開発が起こるとされていますので、全く理屈に合わないように見えました(こんな感じで、過去において常識というものが役に立った記憶がありません)。

要は必ずしもホテル事業や賃貸事業が上向くと考えて不動産開発がなされているわけではないのです。そして、不況型の不動産売買が落ち着きを見せるまでこの傾向は必然として継続し、誰もとめることができません。幸い沖縄地区の観光客がこれまた著しく増加しているため、このような供給サイドの理由はあまりクローズアップされず、大量供給がそれほど目立った問題にはなっていないようです。ポイントは、このような供給サイドはゆっくりとしたトレンドとして推移するのですが、需要サイドはテロ、食事や文化のブーム、ミュージシャンやテレビドラマなどをきっかけにしてちょっとした市場の変化で大きく伸縮する傾向があるような気がしますので、このような構造を意識しながら事業計画を構築することがプラスになると思います。

【2006.11.24 樋口耕太郎】

*(1) イールド: RevPAR(Revenue per available room)と言われることもあります。客室単価に稼働率をかけたもの。例えば、客室単価10,000円×稼働率75%=イールド7,500円というような計算で表現されます。一般的に部屋あたりの売上効率を評価する際によく利用されています。概念的には稼働率を100%にするための単価と考えることもできます。